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2021年11月 4日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」96・テレワーク中の私用メール

Q テレワーク中の労働者が私用メールをすることがあり、勤務態度が乱れるのではと懸念しています。どのように対応したらよいでしょうか。

koiwa1.png 労働者には職務専念義務がありますから、原則として就業時間中は使用者の指揮命令に従って職務に専念し、使用者の許可なく業務以外の私的行為をしてはなりません。この場合の私的行為とは、営業マンが休憩時間でもないのに業務と関係なく喫茶店に入って長時間滞在したり、事務員が休憩時間以外にデスクを離れて私的な買い物をするなどといった典型的な例はもちろん、会社のパソコンなどを用いて私用メールをすることも該当すると考えられています。

 就業時間中の私用メールについては、就業時間中に行う私的行為が職務専念義務に違反するだけでなく、私用で会社の施設(パソコンなど)を使用することが企業秩序違反に該当するとされ、私用メールを送ることで同僚などに返事をすることを求め、実際に返信するなどのやり取りが相当数あったことが、本人だけでなく周りの労働者の就業を妨げ業務の効率を損ねさせたという意味で企業秩序違反に問われた裁判例もあります(平14・2・26、東京地裁、日経クイック情報事件)。

 ところが、在宅勤務を中心とするテレワークの場合はやや事情が異なります。そもそも自宅は私生活の場であり、家事や子育て、趣味や余暇、地域住民としての役割などの拠点であることから、テレワークの就業時間中であるかどうかを問わず、突然来客があったり、郵便や宅急便が届いたり、私的な電話があったりするのが通常です。単身者や家族が不在という状況の中で、テレワークであることを理由にこれらに対応しないのはむしろ社会常識に反する場合もあり、在宅勤務である以上は私的行為といえども最低限の対応をすることはやむを得ないといえます。

 在宅勤務においては、就業時間中にいっさい外部に連絡を取ることが許されないわけではなく、就業規則などで就業時間中の私用メールが明確に禁じられていない場合には、職務遂行の支障とならず会社に過度の経済的負担をかけない社会通念上相当な範囲で、会社のパソコンを使って1日2通程度の私用メールを送受信しても職務専念義務に違反するとはいえないという裁判例があります(平15・9・22、東京地裁、グレイワールドワイド事件)。

 この場合のポイントは、就業規則などで就業時間中の私用メールについて特段の定めを置いているか、メールの送受信などに要する時間や労力が社会通念上最低限の範囲であるか、他の労働者に返信を求めるなど就業に影響を与えるものでないか、といった点が挙げられます。とりわけ就業規則における明確な禁止規定が重要となりますが、在宅勤務である以上は就業実態や労働者の状況によっては完全に私用メールを禁止することは難しいため、小刻みな休憩時間を認めるとか回数制限をおいて最低限の送受信は認めるといった、弾力的な労務管理が望ましいといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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