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2021年12月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」101・パワハラ防止法への対応①

Q 来年からパワハラ防止法が中小企業にも施行されると聞きますが、法律に違反した場合は会社が罰せられるのでしょうか。

koiwa1.png いわゆるパワハラ防止法が2022年4月から中小企業にも施行されることもあって、従来以上にパワハラ防止対策の重要性が叫ばれています。すでに大企業については2020年6月から施行されていますが、人事採用担当者や各部署の責任者などを中心に社内でパワハラ防止研修などを実施するケースも多いようです。正確にはパワハラ防止法という法律は存在せず、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といいますが、長いので一般的には「労働施策総合推進法」と呼ばれています。

 2018年に施行された働き方改革関連法の一環で従来の雇用対策法から名称変更されていますが、全体の構成は従来と変わらず雇用対策の基本方針や募集・採用における年齢制限の禁止、外国人の雇用管理などの規定が盛り込まれています。

 パワハラ関連については「第9章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」で規定が置かれていますが、具体的には30条の2で明文化されています。

 (雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。(以下略)

 1項では、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③雇用する労働者の就業環境が害されること」というパワハラの定義づけがされています。ただし、これだけではパワハラに該当するかどうかの判断が困難なので、3項によって、パワハラ防止指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が公表されています。

 ここで事業主に課せられているのは、パワハラ防止を目的として労働者からの相談に応じ、適切に対応するための雇用管理上の体制を講じる義務です。具体的には、相談窓口の設置、パワハラ禁止規定や懲戒規定の策定、社内におけるパワハラ防止のための周知・啓蒙などが挙げられます。したがって、法律に規定されたいわゆるパワハラの定義に該当するからといって罰則が適用されるわけではありません。あくまで行政上の措置として、厚生労働大臣が必要と認めるときは、助言・指導・勧告を行い、勧告を受けた者がそれに従わないときは企業名公表ができるとされています。このような法律の性格から、必ずしも「パワハラ防止法」と呼ぶのは正確ではないと考える専門家も少なくありません。

 パワハラ被害を受けた労働者が加害者から損害賠償を受けるためには、一般的には不法行為による損害賠償請求(民法709条)を提起し、会社や上司にそれを求めるためには使用者責任(715条)を問うことになります。パワハラをめぐる裁判例は従来から全国各地で提起されてきていますが、裁判所はあくまでその事案ごとの事実認定に基づいて違法性や不当性を判断し、原則としてパワハラ防止法の規定やそれに基づく指針によって判断するわけではありません。

 分かりやすく例えるなら、交通事故を起こした場合に行政から受ける行政処分と、被害者が加害者に請求する損害賠償の違いのように理解するとよいのかもしれません。いずれにしてもパワハラ防止対策はすべての事業所に求められる重要な課題ですので、それぞれの現場に即した対応を進めていきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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