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2021年12月16日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」102・パワハラ防止法への対応②

Q パワハラ防止法の指針が公表されていますが、この内容についてどのように対応していったらよいのでしょうか。

koiwa1.png 2022年のパワハラ防止法の改正施行にあたって、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が公表されました。前回(101回)も触れましたが、法律の定義だけでは実際にパワハラに該当するかどうかの判断を行うことが困難なため、国のガイドラインとして示されたものです。

 パワハラは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」と定義されていますが、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされています。指針では、パワハラの類型を以下のように整理しています。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)


 これらのうち、(1)身体的な攻撃はそもそも刑法犯に問われる可能性が高いため論外として、(3)人間関係からの切り離し、(4)過大な要求、(5)過少な要求は社会的な常識に基づいて部下と接していればパワハラに問われることは考えにくく、通常は組織としてのルールに基づいて整然と労務管理を行っていれば対応できるため、現場で問題になりやすい類型は、(2)精神的な攻撃や(6)個の侵害だといえます。

 裁判例などでも、上司や先輩社員による人格否定や侮辱的な言動、厳しい叱責や罵倒などが精神的な打撃を与えたことで労働者がメンタル不調をきたし、精神疾患を発症したような場合には、パワハラ行為による不法行為責任や使用者責任が問われている事例も少なくありません。この場合は単に厳しい口調で責めたり、不適切な言動があったのみでパワハラが認定されるわけではなく、あくまで労働者の非違行為や秩序違反、問題行動などの有無や程度と、それに対する会社側の対応との関係や妥当性などが個々の事例に即して問われることになります。

 一般的にはミスやルール違反を犯した労働者を個室に呼び出して厳しく叱責する程度では、度を越えて品位を欠く言動や長時間に渡る拘束、相当性を逸する頻度などの事情がない限りは、ただちにパワハラに問われることはないと考えられます。

 個の侵害については、使用者側が労働者の私的な交際の適否について介入したり、事実上それをやめるように働きかけようとしたことの違法性が問われてパワハラと認定されたような例もあり、職場の秩序や業務遂行への具体的な悪影響が生じていない限りは、職場における交友関係や交際などについては各人の自主的な判断に委ねる必要があるといえます。労働者の個人情報や個人の価値観、心情、病歴や家族の状況、私物の内容など、直接業務に関係がなく労務管理上の必要のない情報などを収集は特に慎重を期すべきであり、基本的には労働者本人の同意を得る必要があると考えるべきでしょう。

 パワハラ防止のための実務対応は、企業規模や業種業態を問わず不可欠のテーマです。指針の類型への適切な理解などを通じて、社内で共有認識を深め必要な措置を進めたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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