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2021年12月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」103・パワハラ防止法への対応③

Q 労働者からパワハラ行為があったという申告を受けた場合には、具体的にどのように対応したらよいのでしょうか。

koiwa1.png パワハラ防止法(労働施策総合推進法)では、パワハラ防止のための対応として「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」(30条の2・1項)を事業主に義務づけています。

 そして「労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない」(同条2項)とされ、「事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない」(30条の3・2項)とされています。整理すると、事業主は法律上、以下の義務を負っています。

①パワハラ相談窓口の設置
②パワハラ禁止規定、懲戒規定の策定
③社内調査体制の整備
④パワハラ禁止の周知・啓蒙
⑤パワハラ研修などの実施
⑥不利益な取り扱いの禁止


 相談窓口については総務・人事の部署内に設置するのが一般的ですが、顧問弁護士、顧問社労士などの外部専門家に委任することもできます。前者は社内事情に明るい担当部署でスピーディーに対応できる、後者は専門性を持った資格者が客観的に対応できるといったメリットがありますが、いずれにしても社内にパワハラ防止措置に取り組む部署は必要であり、法律判断や実務判断が必要な場面で相談できる社外専門家の存在も有益だといえるでしょう。窓口を設置したら社内広報などで周知しますが、労働者への個別メールや社内イントラネットなどを活用することも望ましいでしょう。

 申告を受けた場合の相談については専用の相談室を設け、できれば複数の担当者が同席する体制を作るようにします。管理職や担当者がほとんど男性という企業の場合は、女性社員から申告を受けた場合に同席できる女性の担当者を確保しておくことも望ましいでしょう。以上の点は、パワハラ禁止規程(就業規則)に規定しておくことになります。

 被害者からの申告があった場合は、担当者が本人から十分に聴き取りを行った上で、その内容について加害者からもヒアリングを行い、必要に応じて上司や同僚などからも事情を聴く機会をつくります。通常のパワハラ案件では被害者と加害者の言い分が完全に一致することは少ないですが、意見の食い違い自体をなくすことが目的ではないため、不一致点があればできる限り冷静に客観的に記録するように努めます。

 意見の相違が大きい場合は、メールやメモ、当事者以外のヒアリング結果などを丁寧に集め、被害者、加害者の主張の変更なども漏れなく記録するようにします。ひと通りの聴き取りが終わったら被害者、加害者の双方から署名捺印を得て、その事実関係をもとに調査委員会で懲戒の有無や程度を検討します。調査を経てもどうしても事実関係が判明しない場合は、労働局や裁判所などの第三者機関に紛争処理を委ねるケースもあります。

 企業の経営陣や担当者にとって悩ましいのは、得してパワハラの加害者となる労働者は仕事ができて自分に厳しく社内の人望がある人が多く、逆に被害者となる労働者はそれほど仕事ができず他人に厳しく自分本位な人が多い点です。企業の論理としては加害者の方が余人に代えがたい人材だということも少なくないため、被害者の言い分をある種の色眼鏡で見てしまったり、被害者を排除する方策を検討するような傾向もあります。

 パワハラ問題の対応として配置転換は有効な方策のひとつですが、不用意に被害者を異動させるとのちのち違法性が問われるケースもありますので、本人の同意が得られない配転は実施しないことが望ましいでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

2021年の小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」は今回が最終です。来年は1月6日に再開します。

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