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2022年5月12日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」122・ポストコロナと服装規定の見直し

Q コロナ禍で勤務中の服装のカジュアル化が進み、服装規定などを見直す事業所も少なくないと聞きます。具体的にはどのような変化がみられるのでしょうか。

koiwa1.png 長引くコロナ禍でテレワークなどオンラインを活用した働き方が浸透したことで、就業中の服装にも変化が出てきている例も多いようです。従来はスーツや制服を着用することが求められた業界・業態においても、在宅勤務中はカジュアルな服装が許されたり、営業活動でも直接対面に変わってオンライン会議などが増えたことで、必ずしもスーツの着用が義務づけられない場面が増えつつあります。このような変化はコロナ禍における一過的なものとは限らず、職場におけるドレスコード全般や服装規定の見直しにも波及していく可能性があると考えられます。

 職場の服装の自由化については、2019年頃からKDDI、JR東日本などで先進的な試みが見られはじめ、スターバックス、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、レゴランド・ジャパンなどのサービス・接客業でも、男女共通のドレスコードを導入することで多様化の時代に積極的に対応していこうとする動きが広まりつつあります。中学や高校の制服においても、女子生徒のスラックスを認めるなどのいわゆるジェンダーレス化の取り組みが進みつつあり、制服を制度化している全国の公立高校のうち4割以上で女子生徒にスラックスを認めているという調査もあります(「学校総選挙プロジェクト」、2021年)。

 一方で、連合が2019年に実施した調査では、「服装・身だしなみについての職場での決まり」については「最低限でよい」が54.9%、「本人に任せるべき」が18.1%であり、「決まりが男女で異なることについて思うこと」については「仕方ない」が36.2%、「TPOによって変えるべき」31.5%であり(「社内ルールにおける男女差に関する調査2019」)、職場での服装についてある程度の自由化が必要だと考える人が一定数を超えている一方、男女差については意見が分かれている結果が見てとれました。ただし、コロナ禍の前に実施された調査であり、昨今の変化の中で多くの人の意識面にも変容が見られる可能性もあるでしょう。

 職場の服装や身だしなみについては就業規則や服装規程などで規定が置かれるのが一般的ですが、行き過ぎた男女別のドレスコードを義務づけたり、服装の乱れを理由に服務規律違反で懲戒処分に問うような場合は、従来以上に時代の趨勢に逆行しないような配慮が求められるといえるでしょう。とはいえ、職場の服装をめぐる考え方には個人の価値観や世代間の認識の違いなどもあるため、今後を見据えた事業所としての方向づけを決めるには一定の期間とステップを要する場合も少なくないと思います。以下のような包括的な規定を軸に据えながら、幅広く従業員の意見や意識を集約していくような取り組みも必要なのかもしれません。

(服装・身だしなみの基準)
第〇条 服装および身だしなみは、清潔、清楚、上品を基本とし、職種や職場にふさわしいものでなければならない。
2 次の各号に該当する服装および身だしなみは認められない。
(1)業務の効率を阻害するもの
(2)他人に不快感または奇異な感じを与えるもの
(3)著しく派手なものや、刺激的、挑発的なもの
(4)その他、従業員としてふさわしくないと判断されるもの


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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