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2022年8月 2日

【ブック&コラム】民主主義の危機

 やや大ぶりな話になるが、民主主義が世界的な危機に立たされている。ソ連崩壊当時、日本を含む世界は「民主主義の勝利」と喜び、それが世界中に広がるとはずだと楽観視していた。しかし、そうはならなかった。それどころか、あれから30年経った今、いわゆる専制国家の勢いがめざましい。

c211116.jpg さまざまな原因分析が出回っているが、大きな要因として民主主義は意思決定に時間がかかるうえ、時間をかけても国民の望む政策が行われず、生活が良くならない点を挙げる専門家が多い。その点、意思決定が迅速で政策に誤りがなければ、それこそ専制国家の方がコスパに優れている。生活さえそこそこ良くなれば、報道やデモが制限されようが、他国を侵略しようが、「知らん顔=思考停止」していれば済む。今のロシア国民のように。

 私は「戦後民主主義の申し子」の1人で、民主主義の教育を受け、自由というものを当たり前に享受してきた。それがわずか80年ほど前までは「当たり前」ではなく、太平洋戦争で300万人という膨大な人命を犠牲にした結果、得られたものだということを忘れがちだった。恥ずかしい限りだ。

 同時に、その"緩み"がこの国全体を覆っているように感じられてならない。国の行方を決める国会や行政府は、民主主義の重みをどこまで自覚しているか、心もとない限り。「力には力を」と勇ましい声だけが目立つ一方、不祥事を起こしても「説明責任」を果たした政治家を見たことがない。それが民主主義の自壊につながることがわからないようだ。今年の8月は、例年になく重苦しい終戦記念日を迎えることになる。その方がいい。(間)

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