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2022年8月18日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」136・女性活躍推進法による男女の賃金格差の開示②

Q 女性活躍推進法の男女の賃金格差の開示について、具体的な算出のポイントと留意点を教えてください。

koiwa1.png 女性活躍推進法の男女の賃金格差の開示の対象となる「賃金」は、労働基準法に規定する「賃金」であり、「労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのもの」をいいます。ただし、年度を超える労務の対価という性格を有する退職手当と、経費の実費弁償という性格を有する通勤手当などは例外であり、事業主の判断により「賃金」から除外することができます。この場合、退職手当や通勤手当を除外するかどうかは事業主の判断によりますが、男女の労働者でそれぞれ同じ取り扱いとしなければなりません。

 算出は、賃金台帳や源泉徴収簿等をもとに行うことになります。「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分について、男女別に直近の事業年度の賃金総額を計算し、それぞれの区分の労働者の数で除して、平均年間賃金を算出します。その上で、それぞれの区分ごとに、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して100を乗じて、パーセントを割り出します。この数値については、小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで求めるというルールになっています。

 源泉徴収簿を用いて総賃金を算出する場合、事業年度が1月~12月の企業では事業年度の支払額の合計が年間賃金となりますが、例えば3月決算の場合(事業年度が4月~翌3月)は、2年分の源泉徴収簿を用意して労働者の年間賃金を算出することになります。賃金台帳による場合と源泉徴収簿による場合とで集計の流れが異なることはありませんが、雇用管理区分や事業所ごとに給与計算の処理方法などが異なり、社内的に経理上の電子データなどの取り扱いが一元化できる場合などは、源泉徴収簿を用いる方が効率的な場合もあると考えられます。

 男女の賃金格差の開示については、あくまでそれぞれの区分ごとの平均年間賃金を比較している数値ですから、個別の役割や職務の難易度、習熟度や勤続年数などを判断要素に入れた比較ではないため、必ずしも男女の賃金格差がそのまま不合理な差とはいえないケースもあると考えられます。この点は国も十分に認識しているため、開示にあたっては、「男女の賃金の差異」の数値だけでは伝えきれない自社の実情を説明するため、事業主の任意でより詳細な情報や補足的な情報を公表することも可能とされています。具体的には、以下のような例が挙げられています。

・自社における男女間賃金格差の背景事情がある場合に追加情報を公表
・勤続年数や役職などの属性を揃えて公表
・より詳細な雇用管理区分での男女の賃金の差異や、属性が同じ男女労働者の間での賃金の差異を追加情報として公表
・契約期間や労働時間が相当程度短いパート・有期労働者を多数雇用している場合、男女の賃金の差異を算出し、追加情報として公表
・時系列で男女の賃金の差異を公表し、複数年度にわたる変化を示す


 今回の改正による男女の賃金格差の開示は社会的な注目度も高く、これからの求人活動や全般的な企業イメージにも影響していくテーマだといえます。自社の女性活躍に関する状況を正しく理解してもらうためにも、「説明欄」を活用してできるかぎり詳しく追加的な情報を公表するように心掛けていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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