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2022年10月13日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」144・副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説①

Q 副業・兼業についての新しいリーフレットや解説が出されたと聞きました。どのような内容なのでしょうか。

koiwa1.png 平均寿命の伸長や働き方の多様化、イノベーションの進化、キャリア意識の変化などから、副業・兼業への期待が社会的にも高まり、国の働き方改革においても推進が目指されています。7月8日に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定されたのを受けて、10月3日に「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(改訂版)、「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』リーフレット」(企業の方向け、労働者の方向け)が厚生労働省から公開されました。

 内容としては以下の通りであり、2020年11月版と構成はほぼ同じですが、「Ⅲ.副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中に「(4)副業・兼業に関する情報の公表について」が追加されています。

Ⅰ. はじめに(企業のみなさまへ/労働者のみなさまへ)
Ⅱ. 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」わかりやすい解説
 1.副業・兼業を認めるにあたって
 2.副業・兼業を始める前に
 3.副業・兼業が始まったら
Ⅲ. 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(補足付き)
Ⅳ. 副業・兼業に関する裁判例
 1 副業・兼業の現状
 2 副業・兼業の促進の方向性
 3 企業の対応
 4 労働者の対応
 5 副業・兼業に関わるその他の制度について
Ⅴ. 相談窓口・セミナーのご案内


 多くの裁判例では、労働者が勤務時間外に副業・兼業を行うことは原則として許されるとされているため、副業・兼業を禁止していたり、一律許可制にしている事業所では、早急に就業規則などの見直しや環境の整備などが求められます。従来は国が示した就業規則規定例などでも「兼業の禁止」などがうたわれていたため、実際に労働者から副業・兼業の申し出がなかったり、長らく就業規則の見直しを行っていないような場合は、今でも規定もしくは慣行として禁止や一律許可制などを行っている例もあると思われます。現在、厚生労働省の「モデル就業規則」では、以下のような副業・兼業についての規定が示されています。

(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合


 ポイントは、2項で労働者の副業・兼業を禁止・制限できる場合が示されている点です。裁判例などにおいても①~④の考え方はほぼ確立されているため、就業規則などで具体的な規定を置いておくことが求められます。とりわけ、②の秘密保持義務や④の競業避止義務については、昨今の多様な働き方の広まりや情報技術の進化などによって現場で具体的に問題となるケースも増えつつあるため、企業としてのルールの確立と労働者への周知が大切だといえるでしょう。

 具体的には、秘密保持義務における「業務上の秘密となる情報の範囲」、競業避止義務における「禁止される競業行為の範囲」については、一般的・抽象的な表現ではなく、企業独自の規範・規定として具体的に定めた上で、相応の周知をはかっておくことが肝要だと考えられます。副業・兼業の促進が労働者のキャリア形成を通じて企業におけるさらなる活躍にも資する時代だからこそ、労使が安心してそれぞれの役割を果たすための最低限のガイドラインがますます重要になってくるといえると思います。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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