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2023年3月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」165・「派遣先責任者」「指揮命令者」「苦情の申出を受ける者」

Q 「派遣先責任者」「指揮命令者」「苦情の申出を受ける者」は、派遣先において兼務することができますか。

koiwa1.png 労働者派遣個別契約書、就業条件明示書などに記載される「派遣先責任者」「指揮命令者」「苦情の申出を受ける者」の3者は、いずれも派遣先において、派遣法上選任が義務づけられています。

 派遣先責任者は、派遣先における派遣労働者の就業管理を一元的に行い、適正な就業を確保するために選任されます。選任にあたっては、①労働関係法令に関する知識を有する者、②人事・労務管理等について専門的な知識又は相当期間の経験を有する者、③派遣労働者の就業に係る事項に関する一定の決定、変更を行い得る権限を有する者の要件を満たし、派遣先責任者の職務を的確に遂行することができるものを選任することが望ましいとされています。派遣先責任者講習の受講は義務ではありませんが、受講することでこれらの要件に該当することができると考えられます。派遣先責任者の主な役割は以下の通りです。

①労働者派遣法や派遣契約の内容、労働基準法などの規定に関する周知を指揮命令者や関係者等へ行う
②派遣可能期間の延長通知に関すること
③派遣先における均衡待遇の確保に関すること
④派遣先管理台帳の作成、記録、保存及び記載事項の通知に関すること
⑤派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に当たること
⑥安全衛生に関する連絡と調整にあたること
⑦その他、派遣元事業主(派遣会社)との連絡・調整に関すること

 指揮命令者は、派遣先で就業している派遣労働者に対して、業務の指示を与える者であり、派遣労働者の業務を把握し、実際に現場で直接指示を出すいわば上司的な役割を担います。業務指示のみならず、時間外労働の管理など就業状況の管理・調整も行うことになります。

 苦情の申出を受ける者は、文字通り派遣労働者からの苦情を受けづける申出先となる者です。派遣労働者が派遣先でトラブルに巻き込まれたり、不満を感じたときに「どこに言えばいいのだろう?」とならないように、就業条件明示書に「苦情の申出先」があらかじめ記載されています。

 それぞれの兼務についてはどのように考えるべきでしょうか。まず、派遣先責任者と指揮命令者の兼務は可能です。実務上は別々に選任することになりますが、派遣法上、兼務を禁止する規定はありません。派遣先責任者には上記のようにさまざまな業務があり、指揮命令者と兼任することで目が届かない点が出てくる可能性という視点からは別の者を選任することが望ましいと考えられますが、少なくとも派遣法的には問題はありません。

 派遣先責任者と苦情の申出を受ける者の兼務も可能です。派遣先責任者の職務には、「派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に当たること」も含まれていますので、制度上も問題ないものと考えられます。

 しかし、指揮命令者と苦情の申出を受ける者の兼務は望ましくないとされています。苦情やトラブルの中には、指揮命令者に関するものも含まれてくると想定されます。当事者が苦情処理担当者となることで、事態を悪化させることにもなりかねません。また、そもそも本人に申し出るのは難しいので、そのような取り扱いになっています。実際に筆者が事業所から確認する頂く書類で、まれにこれらの役職が兼務になっているパターンもみられますが、とりわけ許可を取得して間もない事業所などでは注意したいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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