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2023年12月19日

【ブック&コラム】「民主主義」は負けるのか

 香港の民主活動家の周庭氏がカナダに亡命した。当局に収監されてから彼女の動向が気になっていたが、最後はこの方法しかなかったという。本人の話から、香港の治安当局がどのような締め付けをするのか、具体的にわかって興味深かった。中国は最大級の脅し文句で「帰国」を促しているが、ムダに終わるだろう。

 さっそく西側メディアの取材が殺到しているそうだが、周さんは「香港のことを忘れないでほしい」という一念から、積極的に情報発信しているようだ。ただ、達者な日本語で事情を説明する彼女の表情は、寂しそうに見えた。10年前の「雨傘運動」を先導した時の高揚した顔つきとは違っていた。「香港には戻らない」という決心の裏に、やはり「自由な祖国」を失った喪失感があるのだろう。国家という巨大な権力に、たった1人の若者が立ち向かう心細さも感じられ、胸が締めつけられる。

c210622.jpg そう思うと、日本の「民主主義」は平和で自由このうえないが、それが当たり前だと思ってはいけないことに改めて気づく。自民党の裏金問題に検察がメスを入れているが、権力の不正を暴くメスこそが民主主義の存在意義であり、仮にそのメスが政府批判をする側に向かえば、今の中国、あるいは戦前の日本に戻る。国民の期待や願いを裏切る政権なら、徹底的に批判する自由がある。それこそ、かの国との基本的な違いではないか。

 現代では、「民主主義国家」が世界の少数派になりつつあるという。政治的、経済的効率を考えれば、民主主義は全体主義より劣勢に立たされるかもしれない。しかし、言いたいことを言えない社会の恐ろしさ、息苦しさを周さんは身をもって証明している。日本がその歴史を繰り返してはならない、と切に思う。(俊)

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