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2024年3月21日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」219・LINEで退職の意思を示す従業員

Q 長年勤めてきた正社員であるにもかかわらず、ある日突然LINEで退職の意思が示されて困っています。どのように対応すべきでしょうか。

koiwa24.png 退職をめぐる労使間のトラブルや行き違いは今も昔も尽きないのが多くの職場の悲しい現実ですが、昨今はそんな様相にもかなり変化が訪れていると感じます。若者が電話に出たがらず、常時メールやLINEで意思疎通するのが普通の時代になって久しいですが、今では退職の意思すらLINEで伝えられることもめずらしくはありません。パートタイマーや契約社員、入社間もない新入社員ならともかく、長年勤めてきたベテラン社員からそのようなLINEが来たら、昭和生まれの上司の多くはやはり戸惑いを隠せないでしょう。

 結論からいえば、従業員が退職の意思をLINEで会社に伝える行為は、法律的に有効です。民法や労働法では労働者が労働契約を解除する場合の方法について特に定めを設けてはおらず、原則としては退職の意思が会社に伝わってから14日を経ることで、契約解除は有効に成立することになります。むしろ、上司などからのパワハラ行為があったり、その可能性がある場合には、本人が直接上司や会社に伝えることができないケースもあり、やむなくそれ以外の方法をとった場合に必要以上に責めるような言動に踏みきると、逆にパワハラなどの会社側の責任が問われる懸念もあります。

 とはいえ、退職の手続きにあたっては、所定の届出書や記載内容、提出先や手続きの方法などを就業規則において規定していることも少なくなく、ケースによっては雇用契約書や労働条件通知書などで記載した上で、入社時に担当者から説明しているような場合もあります。このような場合は、一般的・概括的には従業員は第一にその規定に従わなければならず、LINEにおける連絡が無効にはならないにせよ、病気療養などの特段の事情がないのであれば、事後に遅滞なく退職届などの手続きを行うことを求めることができると考えられます。

 かなり古い事例ですが、「被用者が退職という雇用関係上もっとも重大な意思表示をするに際しては、これを慎重に考慮せしめ、その意思表示をする以上はこれに疑義を残さぬため、退職にさいしてはその旨を書面に記して提出すべきものとして、その意思表示を明確かつ決定的なものとし、この雇用関係上もっとも重要な法律行為に紛争を生ぜしめないようにするとともに書面による退職の申出がない限り退職者として取り扱われない」としている裁判例(横浜地裁昭和38年9月30日)などもあります。時代の変遷を考えるとこれを字義通り踏まえるのは無理があるにせよ、ひとつの参考にしたいものです。

 物心ついたときからデジタルネイティブだった世代の従業員にとっては、面談や書面などのやりとりを避けてLINEやメールなどの方法をとることは、必ずしも悪意や恣意に満ちた行為と限定できるものとは限らず、彼らにとっては日常的な流儀の延長線上にあるものかもしれません。このようなケースで会社側として避けるべきことは、つい感情的になったり必要以上に本人との関わりを排除することです。まずは冷静にLINEによる意思表示の内容が退職届に必要な項目を満たしているかを判断し、不足や疑義があればその点を穏やかに確認する姿勢を持つことが大切でしょう。

 客観的にみると、LINEによる退職の意思表示自体は有効とはいえ、実際には業務では使用していない個人アカウントに送信されて対応できなかったり、メッセージ自体が不具合などによって的確に送信されないなどのリスクもあります。そして、正式な退職の意思表示に必要な内容が網羅されていなかったり、微妙なニュアンスによって確定的な受理が難しいケースもなどもありえます。会社としては就業規則などでガイドラインとなる手続きの方法や要領を確定しつつ、必要な場面で確実な周知をはかっていくことが大切だといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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