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2024年5月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」226・「5月病」と脳の老化について

Q 5月の連休が明けると、「5月病」が話題になります。5月病の予防や就業意欲の向上のためには脳の老化と向き合う視点も大切と聞きましたが、どのようなテーマになりますか。

koiwa24.png 人間は年齢ともに心身が衰え、それは老化という形で現れます。老化というと、お爺さんやお婆さんを想像しがちですが、実際には成人前後をピークに衰えが始まりますから、個体差や環境素因なども考慮すると、20代や30代の若さで直面し始めるという例もめずらしくありません。昨今の「やる気が出ない」「モチベーションが上がらない」と叫ぶZ世代の人の存在を見れば、その一端を垣間見ることができます。

 老化にも、さまざまなものがあります。疲れやすくなった、視力が衰えた、白髪が増えてきた、肌の質が悪くなった、記憶力が低下した。これらはすべて何らかの形で老化が影響していると考えられます。でも、老化の中でももっとも根本的なものは、「意欲の減退」なのだといいます。言い換えるならば、モチベーションの低下です。

 単純に疲れがとれないとか、もの覚えが悪くなったというだけではなく、映画や音楽に触れて心から感動したり、初体験の出来事に無邪気に心が弾むことが少なくなってきたと思いませんか。これらは単に「歳のせい」というだけではなく、人間の脳の役割分担と機能の変化が影響していると考えられるのです。

 脳にはさまざまな機能があり、役割分担があります。責任感を持って毎日の日常業務を頑張ったり、毎朝の日課として新聞を読んだり、週末に小説を読んでリラックスするときに主に働くのは、脳のうち側頭葉という部分です。ここでは、言語の理解や記憶が司られています。

 それに対して、「何としても○○を成し遂げたい」と意欲を燃やしたり、「理屈抜きに感動して涙が出てきた」という感動に関わるのは、前頭葉です。脳の前方に位置する前頭葉は、人間としての本来のモチベーションの生成・維持や、内から湧き出てくるような感情のコントロールを司っていますが、人間は老化によってこの部分がまず衰えてくることが知られています。

 普段の仕事でも、日常生活でも、意識しないとついつい使う機会が減ってくるにも関わらず、加齢にともなう老化が顕著になりがちな部分であって、なおかつ人間を人間たらしめるもっとも高度な脳であることから、その機能の低下が全人格的に深刻な影響を与えてしまい、将来の認知症の発症などにもつながりかねない危険があることを、私たちはまずしっかり認識する必要があるでしょう。

 日常を離れて自分や家族との時間が持てる連休には、自分がかつて取り組んでいた得意分野に触れることでモチベーションを高めたり、文章や絵画や音楽といった創作に挑戦することで創造意欲を引き上げることが、結果として仕事全般への取り組み意欲を向上させることにも資するのではないかと考えられます。

 業態や企業規模、従業員の構成、経営方針などにもよりますが、企業として休暇中の自主的な活動を奨励して優れた成果や事例を挙げた人を表彰したり、現場を離れた目線から気づく業務上の改善提案や、新規事業・商品・サービスなどのアイデアを募って、採用者を評価していくなどの試みも有益かもしれません。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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