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2025年9月18日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」294・令和8年度の派遣労働者の一般賃金

Q 令和8年度の派遣労働者の一般賃金が公開されたと聞きましたが、具体的にはどのような内容でしょうか。

koiwa24.png 8月25日に「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」、いわゆる「一般賃金」の令和8年度適用分が局長通達により公表されました。一般賃金は派遣労働者の待遇決定を行う上で非常に重要な金額や指数となるものです。以下に、令和7年度適用分との変更点を中心に整理します。

・職業安定業務統計を活用した一般賃金水準
 全体(職業計)で見ると、昨年度より41円上昇の1289円(前年度1248円)。職種別では、前年度より上がる職種が525職種、下がる職種が13職種でした。主な職種でほぼ軒並み上昇していますがとりわけIT関係の技術者や販売に関する職種は平均よりも高い上昇値となりました。

・賃金構造基本統計調査を活用した一般賃金水準
 全体(産業計)で見ると、昨年度より122円上昇の1442円。職種別では、前年度より上がる職種が117職種、下がる職種が7職種でした。こちらも軒並み上昇しており、職業安定業務統計と同様にIT関係の技術者が特に大幅な上昇ですが、職種によって上昇幅の違いが大きく出ています。

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・賞与指数
 「賞与指数」とは、職業安定業務統計の求人賃金に賞与が含まれていないので、これを加味するために、賃金構造基本統計調査の「勤続0年」の特別給与により算出した指数です。令和8年度通達の数値は「0.02」となり、令和7年度通達から変更なしとなりました。

・能力・経験調整指数
 「能力・経験調整指数」とは、勤続0年を100として、能力と経験を年数別に算出した指数であり、賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した、勤続年数別の給与(産業計)に賞与を加味した金額により算出した指数です。令和8年度は次の表のとおりとなりました。

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・学歴計初任給との調整
 賃金構造基本統計調査の「勤続0年」の数値には中途採用者が含まれていることを踏まえて、その影響を調整するために、賃金構造基本統計調査の学歴計の初任給との差を控除するために算出した数値です。令和8年度は次の数値となりました。

 令和7年度:12.6% ⇒ 令和8年度:12.5%(▲0.1%)

・一般通勤手当
 「一般通勤手当」とは、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額のうち、通勤手当に係る額を指します。令和8年度通達では、下記の数値となりました。近年の鉄道・バス運賃の値上げ、ガソリン価格の上昇の影響を受けているものと考えられ、過去にない大幅な上昇値となりました。

 令和7年度:73円 ⇒ 令和8年度:79円(+6円)

・退職手当に関する調査
 退職手当制度を設けている場合、退職手当制度がある企業の割合、受給に必要な所要年数、支給月数および支給金額を示した通達の別添資料の中から、いずれかを選択して自社の退職金制度と比較する必要があります。令和8年度通達では、以下の1調査が更新されましたので確認が必要です。

 中小企業の賃金・退職金事情(東京都)

・退職金割合
 「退職金割合」とは、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な額のうち、退職手当(退職金前払いの方法、中小企業退職金共済制度等への加入の方法の場合)に係る額を指します。令和8年度通達の数値は「5%」で、変更なしとなりました。

 令和8年度の一般賃金水準の額は、全体(産業計・職業計)で上昇し、また、上昇する職種の数もかなり増えました。状況によっては、使用する統計の変更や使い分けを検討する例もあるかもしれませんが、一般賃金の額と同等以上であれば、労働者派遣法に直ちに違反するものではないものの、見直し前の労使協定に定める協定対象派遣労働者の賃金の額を基礎として、公正な待遇の確保について労使で十分に議論することが望まれるとされています。また、賃金を引き下げることを目的に、使用する統計の変更、使い分けを行うことは、法の趣旨に反するものとして認められません。

 今回公表された一般賃金の額は、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの労使協定に適用されるものですが、それより前に適用することもできます。ただし、適用日より前に今回公表の一般賃金額を適用することで、賃金を引き下げるような処置は「不利益変更」になり得ますので、あわせてご注意ください。


令和8年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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