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2025年10月14日

【ブック&コラム】『HR 再起動 AIと人的資本の時代に、人事が担うべきこと』

AI時代における人事の存在意義を問い直す

c251014.jpg著者・藤本 英樹
日本橋出版、定価1870円(税込)


 AIが急速に進化する現在、人口減少が避けられない日本においては、「定型業務はAIに任せ、人間は人間にしかできないことに集中する」という姿勢が欠かせない。しかし現実には、その「人間にしかできないこと」の定義が曖昧なままAIを導入し、十分な効果を得られていない企業も少なくない。

 本書はこうした状況に正面から向き合い、人事部門の新たな役割を明確に描き出す。従来の「定型業務中心の人事」から脱却し、企業文化の変革や人的資本経営の推進にどう関わるかを、実務と哲学を往復しながら提示している点が特徴だ。著者はAIを単なる効率化ツールではなく、「問いを立てる力」を補完する存在と捉え、人間の原体験や身体知と結びつけることの重要性を強調する。その姿勢は、人材育成を「知識伝達の場」から「意味づけの場」へと進化させるための具体的なヒントにつながっている。

 さらに、「価値観」「世代」「AI」という三つのリセットを切り口に社会の大きな変化を整理し、欧米企業と比較して日本におけるカルチャーマネジメントの遅れに警鐘を鳴らす。これは多くの人事担当者にとって、自社を振り返る契機となり、同時に本書は単なる批判にとどまらず、AIを"人材戦略の起点"として再定義。人事部門が組織変革のドライバーへと進化する未来像を描いている。

 AI時代における人事の存在意義を問い直す本書は、日々の業務に追われる担当者に「自部門の使命」を改めて見直す視座を与えてくれる。同時に経営層にとっても、人的資本経営を前に進めるうえでの確かな指針を提供しており、人事と経営がどのように協働すべきかを考えるうえで、大きな助けとなる一冊と言える。(司)

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