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2026年3月 5日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」317・治療と就業の両立支援指針

Q 治療と就業の両立支援指針について、教えてください。

koiwa24.png 改正労働施策総合推進法により、令和8年4月1日から治療と就業の両立支援指針が適用され、職場における社内の環境整備や治療と就業の両立支援の措置を講ずることが事業主の努力義務となります。

 高齢者の就労の増加などから疾病により通院しながら働く労働者の割合が年々上昇する中で、労働者の治療と就業の両立への対応が社会的な課題となる一方、疾病を抱える労働者の中には、疾病に対する理解不足や職場の理解・支援体制が不十分なことにより、離職に至ったり、業務上の理由で適切に治療を受けられないケースも少なくなく、治療と就業の両立支援対策の強化が急務な状況といえます。

 治療と就業の両立支援指針では、労働者の健康確保と就業継続とともに、事業主の視点からも、継続的な人材確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着、生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による事業の活性化、組織におけるワーク・ライフ・バランスの実現などが目指されています。

 指針と労働安全衛生法との関わりについては、健康診断の実施、医師が認めるときの就業上の措置(66条)、特定の疾病が著しく増悪するおそれがある場合の就業禁止、産業医その他の意見聴取(68条、安全衛生規則61条1項)、中高年齢者その他労働災害の防止上特に配慮を必要とする者の適正配置(62条)、健康保持増進措置(69条)などがあり、事業者は、これらを踏まえて、治療と就業の両立のための就業上の措置や治療に対する配慮を行うことが求められます。

 指針では、治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項として、以下の点が挙げられています。

①安全と健康の確保
 就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な就業上の措置及び治療に対する配慮

②労働者本人の取り組み
 疾病を抱える労働者本人が、主治医の指示等に基づき、治療を受け、疾病の増悪防止について適切に取り組む

③労働者本人の申し出
 労働者本人から申し出が円滑に行われるための事業場内ルールの作成や周知、研修による意識啓発、相談窓口及び情報の取り扱い方法の明確化など

④措置等の検討と実施
 労働者に対する措置等を事業主が一方的に判断しないよう、労働者と十分な話し合い等を通じて本人の了解を得て、可能な限り配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講じ、疾病や治療に対する誤解や偏見等が生じないよう関係者は必要な配慮を行う

⑤治療と就業の両立支援の特徴を踏まえた対応
 症状や治療の副作用、後遺症による業務遂行能力が一時的に低下する場合、労働者本人の健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置を講じ、治療に対する配慮を行う

⑥個別事例の特性に応じた配慮
 症状や治療方法等は個人ごとに大きく異なるため、個人ごとに取るべき対応やその時期等は異なり、個別事例の特性に応じた配慮が必要

⑦対象者、対応方法等の明確化
 事業場の状況に応じて、事業場内ルールを労使の理解を得て作成するなど、治療と就業の両立支援の対象者、対応方法等を明確にしておくことが必要

⑧個人情報の保護
 安衛法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、原則として、事業主が労働者本人の同意なく取得してはならず、健康情報については、情報を取り扱う者の範囲や第三者への漏えいの防止も含めた適切な情報管理体制の整備が必要

⑨治療と就業の両立支援にかかわる関係者間の連携の重要性
 治療と就業の両立支援を行うに当たっては、事業所の関係者や医療機関の関係者などが必要に応じて連携することで、労働者本人の症状や業務内容に応じた、より適切な支援を実施


 日本人の2人に1人ががんに罹患する時代、治療と就業の両立は決して他人事ではなく、いつ誰に起こってもおかしくない課題であり、その他の疾病なども含めて、職場における両立支援は人事戦略全般に関わる重大テーマだといえます。新たな指針の内容を十分に把握して、これからの実務対応に役立てていきたいものです。

治療と就業の両立支援指針


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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