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2026年6月11日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」331・男性の第3号被保険者の増加について

Q ある新聞記事で男性の第3号被保険者が増えているという話題を聞きましたが、実際はどうなのでしょうか。

koiwa24.png 先日の大手新聞記事で、国民年金の第3号被保険者の現状について、「3号自体は縮む一方で男性は増加」という見出しが躍り、話題になりました。厚生労働省の2024年度末データによると、会社員や公務員の妻に養われる「男性の第3号被保険者」の数は、およそ13万2600人に達し、30年前の1994年度と比較して実に約3倍にまで増加しています。第3号被保険者の総数(男女合計)は、2024年度末時点で約640万人と、ピーク時からほぼ半減しているのに、「第3号全体は縮んでいる中で、男性だけが増える」という現象が起きているのです。

 第3号被保険者制度は、1986年に導入されました。当時は「夫が働き、妻が家庭を守る」という世帯モデルが一般的であり、専業主婦の無年金を防ぐセーフティーネットとして機能してきましたが、現在では共働き世帯が専業主婦世帯を大きく上回り、女性の就業継続やキャリア形成が当たり前になりつつあります。こうした変化の中で、妻が厚生年金加入者となり、夫が一時的に扶養に入るケースが増え、従来のように「失業した男性がやむなく扶養に入る」というよりも、自らの人生設計の中で制度を活用する例が目立ちつつあります。

 注目すべきは「年齢層の変化」です。かつて男性の3号被保険者といえば、50代の早期退職者や失業による一時的な避難という「消極的な選択」が中心でした。しかし直近10年のデータを見ると、最も伸びているのは「30代」の働き盛りであり、この層は5割も増加しています。背景には、単に「働けなくなった男性の受け皿」ではなく、共働き世帯において「妻が主たる稼ぎ手となり、夫が育児やキャリアチェンジ、学び直しのための時間を確保する」といった、主体的なライフスタイルの選択肢として機能し始めている側面があると考えられます。「男は仕事、女は家庭」という昭和の固定的な性別役割分担が、令和における働く現場においては、名実ともに崩れつつある証左といえるでしょう。

 実際に現場の声を聞いても、「いったん立ち止まりたい」「会社組織から距離を置きたい」「家族との時間を優先したい」という男性は確実に増えています。かつての日本企業では、男性が仕事を離れること自体に強い心理的抵抗がありましたが、現在では育児休業の取得拡大やリスキリング支援なども進み、「一度キャリアを中断する」という選択への社会的許容度も高まりつつあります。

 「男性3号の増加」は、現在の日本の社会保険制度が抱える「歪み」を改めて浮き彫りにしています。そもそも第3号被保険者は、1986年に専業主婦の無年金化を防ぐセーフティーネットとして創設されました。自身で保険料を負担せずとも将来の基礎年金や健康保険の給付が受けられる仕組みは、独身者や共働き世帯を含む、厚生年金に加入する第2号被保険者全体の保険料によって支えられています。

 このため第3号制度をめぐっては、自営業世帯では、配偶者分も含めて国民年金保険料を負担する必要があるのに対し、会社員世帯では扶養配偶者本人の負担が生じないことによる、不公平感や制度疲労も指摘されています。また、一定の金融資産を持ちながら、収入要件だけで扶養に入れるケースなどもあり、「本来の趣旨から外れているのではないか」との議論も根強くあります。

 全体が縮小する中で男性の加入が増えるという現状は、制度本来の「専業主婦救済」という前提から乖離し、就労の抑制(いわゆる年収の壁)を招く温床として、不公平感の議論をさらに加速させることになります。政府内でも、第3号制度の見直し論は断続的に浮上しています。ただ、制度改正は単なる年金財政の問題にとどまらず、「誰が働き、誰が家庭を支えるのか」という、日本社会の価値観そのものが問われているともいえます。従来型の性別役割分担や正社員雇用といったあり方を、もっぱら「誰もが選択する王道」と決めつけず、一時的なキャリアの中断や再挑戦を社会全体で理解しあうという視点が、これまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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