Q 今年の社会保険労務士試験にも、派遣法に関連する出題があったと聞きました。具体的にはどのような内容ですか。
A 8月23日、第58回(令和8年度)社会保険労務士試験が実施されました。酷暑の中での試験日となりましたが、受験されたみなさん、お疲れさまでした。派遣法関連については、例年一問出るか出ないかといった出題状況ですが、派遣の実務に携わりながら受験する人もおられますので、気になるところかもしれません。今年は以下の出題がありました。試験問題を通じて、現場の目線から基本知識の確認や実務への応用の参考にできる点もあるため、この機会にみなさんと一緒に考えてみたいと思います。
〔問4〕労働契約法等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
B 請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が、注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために、請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり、上記の派遣を労働者派遣法に違反する労働者派遣と解すべき場合において、(1)上記雇用契約は有効に存在していたこと、(2)注文者が請負人による当該労働者の採用に関与していたとは認められないこと、(3)当該労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたといえるような事情はうかがわれないこと、(4)請負人が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったことなど判示の事情の下であっても、当該労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたことをもって、注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたといえるとするのが、最高裁判所の判例である。
上記の記述は、パナソニックプラズマディスプレイ事件・最高裁判決(最二小判平21.12.18)からの出題です。この事件では、請負会社と雇用契約を結んでいた労働者が、注文者の工場で働き、注文者から直接具体的な指揮命令を受けていました。最高裁は、この実態について、「請負人が労働者に指揮命令をしていない」「注文者が労働者に直接具体的な指揮命令をしている」という事情から、形式上は「請負契約」であっても、実質的には労働者派遣に当たると判断しました。
最高裁は、問題文に挙げられている、(1)雇用契約は請負人との間に有効に存在、(2)注文者は採用に関与していない、(3)注文者が給与額を事実上決定していない、(4)請負人が一定の範囲で具体的な就業態様を決定できる、といった事情を総合して、注文者と労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとは評価できないと判断しました。黙示の雇用契約が成立するためには、単に指揮命令関係があるというだけでなく、注文者が事実上その労働者について採用・賃金支給・処遇面などを含めて直接雇用していると同等に評価できるような特別な事情が必要とされ、厚労省の判例資料でも、最高裁について「黙示の雇用契約は否定」と整理されています。
したがって、問題文の最後の「注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたといえるとするのが、最高裁判所の判例である」という部分が、誤りです。問題文を整理すると、以下のようになります。
<問題文の記述 → 最高裁判例>
注文者から直接具体的な指揮命令 → ○
偽装請負に該当 → ○
違法な労働者派遣に当たる → ○
請負人との雇用契約は有効 → ○
注文者が採用に関与していない → ○
注文者が給与額を決定していない → ○
請負人が一定の範囲で就業態様を決定できる → ○
注文者との黙示の雇用契約が成立する → ×
前半の事実関係はすべて最高裁判決の流れに沿っていますが、最後の結論だけが反対になっています。パナソニックプラズマディスプレイ事件では、「偽装請負」であるからといって、ただちに「黙示の雇用契約」が成立するわけではないと判断されており、①偽装請負か? という論点と、②注文者と労働者との間に黙示の雇用契約が成立しているか? という論点が別々に示されています。①偽装請負については肯定された上で、②黙示の雇用契約は否定しているという押さえ方で理解したいものです。
注文者が直接指揮命令をしていれば、請負ではなく労働者派遣の実態となりますが、「労働者派遣に該当する」という点と、「注文者との雇用契約が成立する」という点はまったく異なります。労働者派遣は、派遣元と労働者との雇用関係、派遣先と労働者との指揮命令関係という三者関係から成立するため、たとえ違法な派遣であったとしても、それだけで派遣先(注文者)との雇用契約が自動的に成立するわけではありません。
実務の視点からみれば、「偽装請負」≠「黙示の雇用契約成立」という構図は自然な理解になるのではないかと思います。この機会に、今年の社労士試験のほかの出題なども覗いてみていただきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)






















