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2015年4月27日

労働契約申し込みみなし制度、厚労省の「行政解釈」

現行派遣法の「10月1日施行分」について示した通達案

is150427.jpg 24日に開かれた労働政策審議会の労働力需給制度部会(鎌田耕一部会長)で、10月1日施行の「労働契約申し込みみなし制度」について、事務局の厚生労働省が「行政解釈」を示した=写真。この解釈は、今後の同部会の審議を終えると、通常、速やかに通達文として発せられる。(報道局)

 労働契約申込みみなし制度は、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点で、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申し込みをしたものとみなす制度。2012年に施行された現行労働者派遣法(平成24年法)に盛り込まれたが、ここだけは今年10月からの施行となっていた。

 今回の厚労省案は、法律の所管省庁が「個別具体的なものは司法判断」を前提としながらも、出来るだけトラブル防止(司法判断への未前回避)を図るための「行政解釈」として提示された。今回、原案全文を掲載する。なお、参考のため同日の部会で労使が疑問などを示した部分を朱色で示すこととした。

これが「行政解釈」の全容。問われる実務にとっての有用性

(以下の文章は厚労省が24日に提示した原案の全文であり、細部まで確定したものではありません。朱色と太字はアドバンスニュースの編集)

 労働契約申込みみなし制度に係る法第40条の6の規定は、民事的効力を有する規定であり、その効力が争われた場合については個別具体的に司法判断されるべきものであるが、法の趣旨及び行政解釈は以下の通りである。

1 制度の趣旨

違法派遣の是正にあたっては、派遣労働者の雇用が失われないようにして、派遣労働者の保護を図る必要。また、善意無過失の場合を除き、違法派遣を受け入れた者にも責任があり、そのような者に対して一定のペナルティ(民事上の措置)を科すことにより法規制の実効性を確保する必要。これらの理由により創設された制度。

2 論点

(1)申込みを行ったとみなされる時点

ア 総論

・ 法第40条の6第1項各号に該当する行為(労働者派遣の役務の提供を受ける者(以下「派遣先等」という。)が、派遣労働者を禁止業務に従事させることその他違法状態で労働者派遣の役務の提供を受けること。以下「違法行為」という。)が行われた時点に労働契約の申込みをしたとみなされる。

 2暦日にわたって継続就業するような日単位の役務適用とならない場合を除き、違法行為が行われた日ごとに労働契約の申込みをしたとみなされる。

・ 派遣労働者が承諾できる申込みは、最新の申込みに限られない。

イ 善意無過失

・ 違法行為への該当について善意無過失である旨の派遣先等による抗弁が認められた場合には、労働契約申込みみなし制度(以下「みなし制度」という。)の規定は適用されない。

・ 各就業日に行われた違法行為について、当該日の役務の提供の受入れの開始時点において、違法行為への該当について善意無過失であった場合は、上述の日単位の役務提供とならない場合を除き、当該日に行われた違法行為については、善意無過失の抗弁が認められる。(当該日の役務の提供の受入れの開始時点より後に善意無過失でなくなった場合については、上述の例外を除き、当該日の翌就業日以降に、行われた違法行為について善意無過失の抗弁が認められない。)他方、当該日の役務の提供の受入れの開始時点において違法行為への該当について善意無過失でなかった場合は、当該日に行われた違法行為についても善意無過失の抗弁が認められない。

ウ 施行日時点で違法行為が行われている場合

 みなし制度の施行に関しては特段の経過措置を設けていないため、みなし制度が施行された時点においてみなし制度が適用される違法行為を行っている場合には、派遣先等は、その時点において労働契約の申込みをしたものとみなされる。

エ 違法行為の類型

・ 派遣先等による法第40条の6第1項各号に該当する以下の行為をいう。

○ 派遣労働者を禁止業務に従事させること
○ 無許可又は無届出の者から労働者派遣の役務の提供を受けること
○ 期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること
○ 労働者派遣法又は同法の規定により適用される労働基準法等の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、必要とされる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること(いわゆる偽装請負等)

・ このうち、いわゆる偽装請負等については、禁止業務への従事、無許可・無届出の者からの労働者派遣の受入れ及び期間制限を超えた労働者派遣の受入れという3つの類型と異なり、派遣先等の主体的な意思が介在するため、善意無過失に係る論点に加え、固有の論点が存在する。

※いわゆる偽装請負等に固有の論点

 労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」という。)で、請負契約等を締結し、当該請負事業主が雇用する労働者に労働者派遣と同様に指揮命令を行うこと等によりいわゆる偽装請負等の状態(以下「偽装請負等の状態」という。)で役務の提供を受けた時点で申し込んだとみなされる。

 偽装請負等の目的の有無については個別具体的に判断されることとなるが、「免れる目的」を要件として明記した立法趣旨に鑑み、指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって「偽装請負等の目的」を推定するものではない。

 また、請負契約等を締結した時点では「偽装請負等の目的」がなく、その後、派遣先等が受けている役務の提供がいわゆる偽装請負等に該当するとの認識が生じた場合は、日単位での役務の提供となっていない場合を除き、いわゆる偽装請負等に該当すると認識した時点が一日の就業の開始時点であれば当該日以降、開始時点より後の認識であればその日の翌就業日以降初めて指揮命令を行う等により改めて「偽装請負等の状態で役務の提供を受け入れた」と認定される時点において、「偽装請負等の目的」で契約を締結し役務の提供を受けたのと同視しうる状態だと考えられ、この時点で申込みが行われたとみなされる。

(2)申し込んだとみなされる労働条件の内容

ア 総論

・ 違法行為の時点における労働者派遣をする事業主(以下「派遣元事業主等」という。)と当該派遣元事業主等に雇用される派遣労働者との間の労働契約上の労働条件と同一の労働条件(当事者間の合意により労働契約の内容となった労働条件の他、就業規則等に定める労働条件も含まれる。)であり、労働契約上の労働条件でない事項については維持されるものではない。

イ 労働条件が派遣元事業主等に固有の内容である場合等

・ アに関わらず、立法趣旨に鑑み、申し込んだとみなされる労働条件の内容は、使用者が変わった場合にも承継されることが社会通念上相当であるものとなる。

ウ 労働契約期間

・ 労働契約の期間に関する事項(始期、終期、期間)は、みなし制度により申し込んだとみなされる労働契約に含まれる内容がそのまま適用される(始期と終期が定められている場合はその始期と終期となり、単に「1年間」としているなど始期と終期が定められていない場合には労働契約の始期等に係る黙示の合意等を踏まえて判断される)。

エ 労働契約法第18条との関係

・ 労働契約法第18条に規定する通算契約期間は、同一の使用者について算定するものであるため、派遣先等で就業していた派遣労働者が違法行為に該当する派遣によりみなし制度の対象になった場合、原則として、承諾時点までの派遣元事業主等と派遣労働者との労働契約期間と、当該派遣労働者が承諾して派遣先等で直接雇用となった場合の派遣先等での労働契約期間は通算されない。

オ 労働契約法第19条との関係

・ みなし制度の適用により成立した労働契約の雇止めに関し、その効力が争われた場合、当該効力の有無については、労働契約法第19条に基づき個別具体的に司法判断されるべきものである。

(3)労働契約の成立の時点

ア 総論

・ 労働契約が成立するのは、みなし制度に基づく申込みについて、派遣労働者が承諾の意思表示をした時点(隔地者間の場合は承諾の通知を発信した時点(民法第526条第1項))となる。

イ 承諾をしないことの意思表示

・ みなし制度は派遣先等に対する制裁であることから、違法行為の前にあらかじめ「承諾をしない」ことを約する意思表示を行うことは公序良俗に反し認められない。

・ なお、労働契約の申込みがみなされた後に「承諾をしない」と意思表示をすることは公序良俗に反するものではないが、「承諾をしない」との意思表示をした後に、再度違法行為が行われた場合には、新たに労働契約の申込みがあったものとみなされる。

(4)複数の事業所が関与する等の複雑な事案

・ 対象となる派遣先等が複数ある場合は、それらすべてから当該派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたとみなす。そのため、派遣労働者は承諾する相手を選ぶことができる。

・ 複数の条項に違反している場合については、各条項がそれぞれみなし制度の適用の根拠であることから、いずれの条項に基づいてみなし制度の適用を主張するかは派遣労働者が選択することができる。

・ 違法行為は個々の派遣労働者に対してそれぞれ行われていると解することから、複数の派遣労働者が同時に違法状態で就業している場合は、それら全ての派遣労働者に対してそれぞれ労働契約の申込みが行われているとみなす。また、派遣労働者の交代があった場合も、派遣労働者は自己に対する違法行為が行われた最後の時点から1年を経過しない限りは、みなし制度の適用を主張できる。

多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合について、法第40条の6が「労働者派遣の役務の提供を受ける者」としているため、原則として、労働者を雇用する者(下請負人)と直接請負契約を締結している者(元請負人)が労働契約の申込みをしたものとみなされると解される。このため、注文主は下請負人とは直接請負契約を締結していないため、注文主が下請負人が雇用する労働者に対して指揮命令等を行った場合は、原則として、元請負人から労働者供給(職業安定法第4条第6号)を受けているものと解され、この場合に本条の適用はないと解される。

・多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合に、みなし制度に基づき元請負人が請負契約を締結している下請負人の労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされ、当該労働者が承諾の意思表示をした後、当該元請負人と契約している注文主が偽装請負等の目的をもって偽装請負等の状態で役務の提供を受けた場合には、みなし制度が適用され、注文主が当該労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされると解される。
 

以上

 

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