スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2015年6月22日

規制改革会議の「解雇紛争の金銭解決」

あっせんなどで活用、労組は強く反発

 政府の規制改革会議(岡素之議長)がこのほど答申した第3次改革案の中に、同会議の雇用ワーキンググループ(WG、鶴光太郎座長)が中心となって検討してきた「労使双方が納得する雇用終了の在り方」が盛り込まれた。その中心は「解雇無効の場合の金銭解決」に初めて踏み込んだ点だが、日本ではこれまで法的枠組みではなく、実質的な手段として認められてきたに過ぎないことから、労働組合などは「解雇の濫用につながりかねない」と強く反発しており、早急に制度化されるかどうかは未知数だ。(報道局)

和解金の“相場”が形成・公表されていない現状

 「雇用終了の在り方」では、解雇を巡る労使紛争の解決手段として、日本には現在、各地の労働局や労働委員会による「あっせん」、裁判所の「労働審判(調停)」、訴訟といった制度があるものの、あっせんは企業側の参加率が低いため、解決率も低い。また、訴訟は長期に及ぶケースが多く、実質的には大企業労組をバックにした労働者しか利用できない。その中にあって、労働委員会のあっせんは、比較的労使双方の納得感が得られるため、機能活用・強化が必要としている。

is150622.jpg

安倍首相に答申した規制改革会議の
記者会見(6月16日)

 これらを踏まえて答申では、(1)労働局のあっせんを検証して、企業側の自発的参加を促す方法を、2015年度中に検討、結論を出す(2)労働委員会の機能活用・強化も15年度中に検討、結論を出す(3)紛争解決システムのあり方について、15年中に労使代表、法曹・学識関係者を集めた議論の場を立ち上げ、金銭解決も含めた課題の論点整理をする――とタイムスケジュールを掲げた。

 (3)については、労使の個別紛争で仮に企業側の不当解雇が認められたとしても、現実には元の職場復帰はむずかしいことが多いため、企業側が金銭を支払う“手切れ金”方式で解決するもの。労働政策研究・研修機構がこのほど公表した調査報告書によると、欧米先進9カ国では米国を除く8カ国で、不当解雇時には職場復帰か金銭解決による方法が広く認められている。

 日本の場合も、労働局や労働審判のあっせんなどでは、トラブルの9割以上が金銭解決で和解しており、解決金額は中央値で見るとあっせんは約15万6400円、労働審判は110万円、和解は約231万円となっている。ただし、金額にはかなりのバラつきがあり、ケースバイケースの紛争が多いことや和解金の“相場”が形成・公表されていない点が大きな特徴になっている。

 これらの実態を「見える化」することで、不当解雇に泣く中小企業の社員らを救済することにつながる効果が期待できる。鶴座長は答申時に、「いわゆる『解雇の金銭解決』ではなく、解雇紛争における速やかな解決に向けた選択肢」と狙いを明言している。

専門家でも分かれる意見、これから見据え必要な政策とは

 しかし、これに対する見方は一様ではない。八代尚宏ICU客員教授は「この補償金の基準を、労働審判などの場でも援用できれば、裁判に訴えられない中小企業の労働者にとって利益は大きい」(『規制改革で何が変わるのか』より)と評価する。

 これに対して、同研究・研修機構の菅野和夫理事長は同WGでのヒアリングで、「日本の紛争解決制度は労働局や労働委員会のあっせんなどが整備され、良く機能している」「金銭解決の制度化は必要性に乏しい。解決金額の画一的基準は紛争当事者の納得を得にくく、現在の良好な制度機能を阻害しかねない」と反対するなど、専門家の間でも意見が分かれている。

 また、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会(岩村正彦分科会長)では、これまで「成果型労働」の導入など、働き方については一定の結論は出しているが、紛争解決が議題になったことはない。労働者側委員からは同会議の議論をけん制して、「労働者の解雇が容易になるだけで、金銭解決など認めることはできない」と予防線を張る意見が出ている。

 連合も答申に対して素早く反応し、神津里季生事務局長が「不当解雇が行われた際に、たとえ労働者が職場復帰を望んだとしてもその道が閉ざされることになりかねない。金銭さえ支払えば解雇できる、との風潮を広める懸念がある」と、制度導入は不要とする談話を発表した。仮に答申における「議論の場」が労政審になれば、労使の激しい攻防になるのは必至で、制度化には紆余曲折ありそうだ。

 

【関連記事】
「労政審委員の構成団体のあり方」なども検討を提起
政府の規制改革会議、安倍首相に答申を提出(6月16日)

PAGETOP