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2016年11月21日

NPO法人「パオッコ」理事長、太田差惠子さんに聞く(下)

改正介護休業法の活用で職場風土の改善を

―― 介護離職を防ぐため、政府も介護休業法の改正(来年1月施行)などを通じて「介護離職ゼロ」に向けた政策を強化しています。どう評価しますか。

is161121_1.jpg太田 仕事と介護を両立していくためのセーフティーネットとして、制度が使いやすくなることは大きな前進ではないかと思います。ただ、私は制度の良し悪しを論じるより、今ある制度をうまく活用し、仕事と介護をなんとか両立させる方法に注力しています。今現在困っている人に対して、どうしたらいいか情報発信するのが、自分の役割だと考えています。

―― 改正法では、介護休業(最大93日)を従来の1回から3回に分割取得できるなど、使い勝手を良くすると同時に、企業側の対応努力も求めています。

太田 私の実感では、制度を充実させることも大切ですが、その前に会社や職場の理解が不可欠だと思います。私は企業で「仕事と介護の両立」について講演することも多いのですが、仮にトップや人事などの担当部署で制度の趣旨を理解したとしても、それ以外の部署にどこまで浸透しているかとなると、心もとないケースも少なくないですね。

 社員が介護休業を申し出た場合、上司や同僚の反応が「えっ、仕事はどうするの?」「他に介護する家族はいないの?」だとすれば、制度はあっても親の介護が始まったことを言い出せない。出産・育児と違って介護は予測しにくいので、本人はもちろん、職場にとっても唐突な感じを受けるのでしょう。しかも、申請する社員の多くは年代的に職場の中核社員、管理職といった人なので、周囲にすればどうしてもそうした反応になるのだと思います。真面目で責任感の強い社員なら、「職場に迷惑を掛けられない」と思い込んで離職の道を選択することも十分あり得ます。

介護は「情報戦」、事前の準備がカギを握る

―― 離職に追い込まないために、上司や職場はどうすればいいですか。

太田 大事な社員を離職させたくないと思ったら、「職場に迷惑を掛けられない」と考えずに済むような態勢を作っておくことがポイントです。上司の方々には「家族が倒れるのは誰にでも起こること。お互いさま」「あわてて先のことを決めない方がいい。状況が落ち着いてから一緒に相談しよう」といった声掛けをしていただきたいですね。

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介護離職防止セミナーが相次ぐ

 そのためには、言い出しやすい職場風土を日ごろから構築しておくことがとても重要です。それは介護に限ったことではありませんが、現実には仕事と家庭は切り離せないわけですから、昔のような「家庭の事情を職場に持ち込むべきではない」という発想は捨ててほしいですね。年代的に上司に介護が始まり、部下に「休ませて」と言わなければならない場合もあります。言いやすい風土作りが介護離職を防ぐ、大きな力になります。

―― 今回の法改正は、企業の体制整備を後押しすることも狙いの一つです。

太田 私が提案している「マネジメント」をうまく実行できれば、社員もそれほど会社を休む必要はなくなり、日常的に仕事との両立は可能になります。そのためには、職場も社員も介護休業制度のほか介護保険制度の概要を事前に理解しておき、いざとなってもあわてずに済むように選択肢を増やしておきましょう。その意味で、介護は「情報戦」です。情報は自分から取りに行くのが基本ですが、介護についてはそれほどむずかしいことではありません。(おわり)


太田 差惠子氏(おおた・さえこ)1960年、京都市出身。96年、遠距離介護を支える「パオッコ」を設立、2005年NPO法人化、現理事長。20年以上にわたる取材活動で得た豊富な事例を基に、「仕事と介護の両立」「遠距離介護」「介護とお金」の視点から新聞、テレビなどで情報発信。『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など著書多数。立教大学院21世紀社会デザイン研究科修了。介護・暮らしジャーナリスト。

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