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2017年8月21日

◆経済トピックス◆ 低空飛行からようやく上昇気流に

消費が貢献、内需主導へ正念場

 1年以上にわたって“低空飛行”が続いていた日本経済だが、ようやく高度を上げてきた。内閣府によると、今年4~6月期の国内総生産(GDP、速報)伸び率は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.0%、物価変動も入れた名目で同1.1%となった。後日発表される確定値で少し変動する可能性はあるが、基調に大きな変化はないとみられる。その主役は、活発な個人消費と逼迫する労働市場にある。

 今回、実質GDPが1年間続いた場合の年率換算は4.0%。プラス成長は16年1~3月期から6四半期連続であり、今回の伸び率が最も高かった。6四半期連続のプラスは、05~06年当時以来、11年ぶりの“連勝”記録だ。

 GDP伸び率は15年当時、個人消費が低迷しており、実質ベースでは4~6月期が前期比マイナス0.3%、7~9月期が同プラス1.0%、10~12月期が同マイナス0.3%の“水面飛行”が続き、7~9月期の場合、速報段階では同マイナス0.8%だったのが、一転してプラス成長になり、「景気後退」を辛うじて逃れたいきさつがある。

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消費はようやく上向いてきた

 しかし、16年に入ると、1%台ながらプラス成長が続くようになり、同年6月に政府が消費税率の10%引き上げを再延期したことで、景気にとって目先のマイナス要因は取り除かれた。GDPの低空飛行要因として、常に問題になったのはその6割ほどを占める個人消費の低迷。個人消費が上向かない限り、設備投資や政府支出、輸出入が活発になっても、GDP全体に及ぼす影響は限られているためだ。

 円安に伴う原材料価格の上昇などで、食品類の値上げが相次ぐ一方で、賃金の上昇がそれに追い付かず、物価と賃金の“にらみ合い”状態がしばらく続いたが、政府が介入する「官製春闘」などで企業が4年連続の賃上げに踏み切り、サラリーマンらの懐に徐々に余裕が生まれたことで、ようやく消費活動に結び付いたと推測される。

 個人消費の動向は、従来の百貨店やスーパーなどは低迷する一方、コンビニ、ネット通販、外食、旅行などは活発で、全体に「モノ消費」から「コト消費」に比重が移っている傾向にあるが、各種統計がそれを敏感に反映するシステムになっておらず、実態がわかりにくいことも景気予想を困難にしている大きな要因になっている。また、今回は6月ごろの猛暑によるエアコンの買い替えといった季節要因が大きかったと指摘されており、その意味では、8月に入ってからの長雨冷夏が消費の下押し要因となる可能性はある。

労働市場のひっ迫は深刻さ増す

 しかし、労働市場の長期動向を見る限り、企業の生産活動は活発であり、多くの企業でそれに見合う人手が不足している。厚生労働省の有効求人倍率(季節調整値)は現在、1.5倍台となり、第1次石油ショックが起きた直後の74年前半と同じ水準に達している。注目すべきは、正社員の有効求人倍率(同)が6月に1.01倍となり、04年11月の集計開始から初めて1倍を超えたことだ。

 企業にとって、正社員の増員は労働力増強の半面、給与水準を上げなければならないうえ、無期雇用契約になることから、不況期になっても容易には解雇できないリスクと責任が伴う。バブル崩壊以後、多くの企業が中心業務を正社員に担当させ、主に周辺業務をパートや契約社員など有期契約の非正規社員に任せることで、業務の繁閑に合わせて雇用調整してきた。これが20年以上に及び、雇用人口に占める非正規の比率が40%近くに及ぶというヒズミの一因となった。

 しかし、この数年来、団塊の世代の大量退職などで正社員が大きく減ったにもかかわらず、後継世代の労働力は人口減で不足し、思うように補充できない事態に局面が変わった。このため、多くの企業で新卒採用を増やすと同時に、それでも不足する分は非正規社員を正社員に“移行”する動きが見られる。それでも不足する企業が多いことから、中途採用でも正社員を獲得しようとする動きが「1倍超え」の最大要因とみられる。

 皮肉なことに、リーマン・ショック直後の不況時には、正規と非正規の格差が社会問題となり、両者の大きな違いは雇用の安定と不安定、給与など待遇面の格差にあると指摘された。しかし、その後の景気回復局面とともに、非正規の雇用の不安定に関する問題意識より、むしろ過労死が続出する正社員の働き方こそが問題になっている。非正規にとって、正社員の魅力はかつてほどではなくなり、非正規の中で比較的給与水準の高い派遣社員などは7割前後が派遣での就労を希望しているとの調査も複数ある。

 個人消費をさらに活性化するには、限られた労働資源を効率的に活用すると同時に、賃金など一層の待遇改善がカギになりそうだ。内需主導の景気を持続させられるかどうか、これからが日本経済にとって重要な局面になる。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
 

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