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2018年1月22日

「3%賃上げ」、初めて実現するか?

好業績、人手不足と最高の環境だが

 今年の春闘が間もなく本番を迎えるが、例年にも増して労使ともに「賃上げ」の動向に関心が集中している。多くの企業が空前の人手不足にあえいでおり、好業績を期待する株価上昇も手伝って「大幅賃上げは不可避」のムードが漂っているためだ。政府にとっても悲願である「デフレからの脱却」が実現するかどうか、今年が転換点になる可能性が高い。(報道局)

 賃上げの水準は、すでに目標が定まっている。昨年秋の経済財政諮問会議で、安倍首相が「3%賃上げ」を経済界に要請しており、年末や新年にも「3%」を繰り返し要請したからだ。実際には個々の企業の労使交渉で決まるが、メディアなどでは「3%の攻防」が焦点となっている。

 首相の要請を受け、経団連もこのほど発表した「経営労働政策特別委員会報告」の中で、「個人消費活性化に向けた『3%の賃金引上げ』との社会的期待を意識しながら、自社の収益に見合った前向きな検討が望まれる」という表現で、「3%」という数字を明記した。榊原定征会長は「従来よりも踏み込んだ処遇改善を図りたい」と述べた。

 これに対して、最大労組の連合は月例賃金で「2%のベースアップと定期昇給分を合わせて4%程度」を要求方針に掲げている。この水準は16年から3年連続で変わっていない。経団連が月例賃金にこだわらず、ボーナスなどの一時金も含めた、いわば年収ベースの賃上げも視野に入れているのに対して、連合は月例給の賃上げにこだわる姿勢を崩さない。

 月例給の中心は業績などに左右されない「基本給」であり、経営側にとっては増減させにくく、退職金の計算など将来的にも責任を伴う部分。一方、労組側にとって生活水準の向上には月例給の増加こそが“本丸”という基本認識であり、労使でせめぎ合いとなる。

sc180122.png 過去の春闘の実績を見る限り、賃上げは経営側の意向を反映する結果となっている。月例ベースでは第2次安倍政権が発足した12年以降、政府が経済界に賃上げを誘導する「官製春闘」の結果、14年以降は4年連続で7000円を超す賃上げが続いているものの、伸び率は2%台前半にとどまっており=同報告のグラフ、労組側の要求の半分強の水準でしかない。

 この水準では、税金や社会保険料の支出も同時に増えるうえ、円安の長期化による物価上昇などもあって、賃上げ分は帳消しになり、それが個人消費の活性化を阻んでいる。これについては同報告も認めており、「3%」という数字を表記する要因となった。

 景気拡大に伴い、企業収益は好調に推移している。しかし、財務省の法人企業統計などによると、12年以降、企業の人件費や配当支出は抑制気味に推移しているのに対して、内部留保(利益剰余金)だけが大幅に積み上がっている事実が鮮明になっている。

 利益剰余金は12年度の304兆円から16年度は406兆円に、同様に総人件費は171兆円から176兆円に増えた。4年間で内部留保は102兆円も増えたのに対して、人件費はわずか5兆円の伸びに抑制されてきた。使うアテもない巨額の資金を“眠らせた”ままにしていることになり、政界などからは「内部留保課税」論が浮上している。

 さらに、ニッセイ基礎研究所が昨年11月、この内部留保について詳細に分析したところ、増えた102兆円を企業規模別に分けると大企業が53兆円、中堅企業が13兆円、中小企業が36兆円という興味深い結果が出た。これは、「内部留保をためこんでいるのは大企業だけ」というイメージは誤りであり、中小企業にも賃上げの余地があることをうかがわせる内容だ。

消費活性化→デフレ脱却へ正念場

 今年、大幅引き上げが期待されるもう一つの背景に「人手不足」が挙げられているが、これが賃上げにどの程度の追い風になるかは不透明だ。その理由として、極端な人手不足にあえいでいる業種はサービス、介護などの分野に集中しており、少なくとも就労者の多い事務系分野などを見る限り、それほど不足しているわけではないからだ。

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昨年の連合の中央総決起集会

 また、労使交渉における労組の組織力が弱く、経営側との力関係では劣勢に立たされる「企業内組合」が多いことも、大幅賃上げを実現できない要因の一つとなっており、今年も大きな変化はみられない。政府が介入する「官製春闘」は5年目に入ったが、労使ともに「決めるのは労使交渉で」と口をそろえるものの、政府が設定する“ガイドライン”に従わざるを得ない構図はむしろ常態化している。

 労使双方にとって、今年は大幅賃上げを実現する絶好の環境が整っていると言える。この機会を逃して低水準の妥結が相次げば、消費の活性化は絵に描いた餅に終わり、デフレ脱却はさらに遠のくであろう。

 


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