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2018年8月13日

◆経済トピックス◆米中貿易戦争

報復関税の応酬、見通せぬ着地点

 もう10年以上前になるが、「チャイナ・フリー」という言葉が米国で流行し、日本でも話題になった。「チャイナ・フリー」は「中国製品を使わない」という意味で、米国のジャーナリスト、サラ・ボンジョルニ氏が書いた「チャイナフリー~中国製品なしの1年間」が大きな反響を呼んだのがきっかけだった。

 それを読む限り、「チャイナ・フリー」はほぼ不可能。ボンジョルニ氏の四苦八苦ぶりをみて、当時から中国製品が米国人の生活の隅々に浸透していることがわかった。ただ、当時の中国は「世界の工場」として、割安な労働力を背景に輸出をテコにした経済途上国であり、米国側もまだ精神的に余裕があった。

sc180813.jpg しかし、それを国家間の貿易問題としてみれば、不均衡の拡大は明らかであり、私は「いずれは両国間の大問題になるだろう」と予想した。その意味で、今回勃発した米中の「貿易戦争」は必然的な成り行きだったのかもしれない。

 トランプ政権は6月、500ドル分の中国製品に25%の高額関税を課す方針を決定。7月に340億ドル、818品目を対象に第1弾を実施。8月には残る160億ドル、279品目分への関税上乗せを追加する。これに対して、中国も同額の米国製品への報復関税を決定した。

 これにとどまらない。米国はさらに2000億ドル分に10%の追加関税を加える方針を発表しており、早ければ9月にも発動する。当然、中国も再び報復に動くなど、対立は激化する一方で、メディアは「貿易戦争」と呼ぶようになった。

 2000億ドル分といえば、米国が中国から輸入する年間約5000億ドルの半分近い規模で、対象品目は消費財や農産物など6000品目を超える。「チャイナ・フリー」が事実上不可能になっている多くの米国民の生活にとって、輸入物価の上昇という形で支障が生じるのは必至だ。

 それを承知で、米国がそこまで強硬手段に出るのは、単なる貿易不均衡の是正だけが目的ではない。

 01年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟してから米国の対中赤字が急増し、17年には8000億ドル弱の貿易赤字の半分近くまで膨らんだのは事実。トランプ政権にとって、中国からの輸入増が米国内の雇用を奪う結果となったと映る。さらに、知的財産権の侵害やIT技術の中国流出といった、軍事絡みのより重要な問題が背景にある。これらは米国だけでなく、EU(欧州連合)や日本もかねてから問題視しており、WTOに提訴しているが、さっぱり効果は上がらない。

 これらを理由に挙げて、「中国は加盟国の義務を果たしていない」というのが米国の言い分だ。しかし、米国民も迷惑をこうむる関税を人質に取ったような「スーパー301条」という恫喝策も、WTO違反の疑いが極めて濃い内容であり、ある意味では五十歩百歩と言ってよい。

 とはいえ、世界1、2位の経済大国による報復合戦が世界経済に影響を与えないはずはない。そもそも、関税自体が前時代の遺物であり、第2次世界大戦の反省を踏まえ、WTOの前身であるガットを通じて、戦後世界の関税撤廃を目指してきたリーダーが、ほかならぬ米国だった。それを180度ひっくり返したような強硬な措置に、米政権のなりふり構わぬ焦りが透けて見える。

TPP、EPAが対抗軸になれるか

 たまたま時期が重なったこともあるが、米中の貿易戦争とは正反対の動きも活発化しており、もっと注目されてよい。まず、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について...

(本間俊典=経済ジャーナリスト)

 

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