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2019年2月18日

(寄稿)法政大学キャリアデザイン学部准教授 松浦民恵さん

父親の家族との夕食回数-1 生活のメルクマールとしての夕食回数

 本連載では、さまざまな面から生活改革が期待される未就学児の父親に焦点を当て、その生活のメルクマールとして家族との夕食回数に注目する。連載1回目では、夕食回数に注目した理由について述べたうえで、家族との夕食回数の現状について概観する。2回目は、夕食回数と退社時間・帰宅時間等との関係を分析し、何時に帰れば家族と夕食を共にできるのかについて考える。3回目は、家族との夕食回数別に、仕事と仕事以外の時間配分への満足度や「けじめ」意識、休暇取得や働き方の現状、勤務先の特徴や本人の属性・評価をみることを通じて、家族と夕食を共にする父親の特徴を浮き彫りにしたい。最後の4回目では、夕食回数を被説明変数とする重回帰分析により、夕食回数の規定要因について検討したい。 (2月21日、25日、28日に更新)

1 家族との夕食回数に注目する理由~家族と夕食を食べたいのに食べられない父親

matsuura.jpg 昨今急速に広がってきた働き方改革は、政府や企業主導の長時間労働削減の取り組みが中心となっているがゆえに、社員自身がどのように働きたいのか、さらには社員がこれまでの生活をどう改革していきたいのかという視点が相対的に乏しい。しかしながら、働き方改革は生活改革と表裏の関係にあり、どちらか一方だけを進めようとしても、いずれ行き詰まる可能性が高い。また、生活改革は必然的に個人主導となることから、個人の意識や行動をどう変えていくかが、より重要な論点となる。

 本連載で注目する育児期の男性については、女性の就業促進や少子化抑制等の観点から、育児・家事の面での生活改革が期待される一方で、働き方改革の不十分さ、労働時間の長さゆえにそうした期待に応えられていない状況が長く続いてきた。
 生活に関する現状や意識をみる上で、家族と夕食を共にしている回数は一つのメルクマールになる。まず、NHKが2016年に実施した「食生活に関する世論調査」で「家族そろって夕食をとりたいか」とたずねた結果をみると、「できるだけ毎日、そろってとりたい」は家族との同居者の6割にのぼり、未就学児がいる者に限定すると76%とさらに高くなっている

 次に、農林水産省「食育に関する意識調査」で家族と夕食を食べる頻度をみると、全体では「ほとんど毎日」が66.5%を占める一方で、男性のなかでも育児期に重なる30代、40代は、「ほとんど毎日」が各44.2%、41.4%と大きく下回る。また、子ども(4歳児)の夕食時間を調べた厚生労働省「第5回出生児縦断調査」の結果をみると、「18時台」が45.2%、「19時台」が39.7%と上位2位で、あわせて8割以上を占めている。つまり、未就学児がいる者の多くが家族と一緒に夕食を食べたいと思っているにもかかわらず、残業を前提にする限り、家族の中でもとりわけ未就学児と平日に夕食を共にするのは、相当難しい現状にあるといえる。

 さらに、家族と夕食を共にすることは、家族とのコミュニケーションの円滑化のみならず、家事の省力化や育児・家事の分担にもつながる。とりわけ未就学児がいる家庭では育児・家事ともに負担が特に大きく、それが母親に偏っている現状がある。総務省「2016年社会生活基本調査」で、6歳未満の子どもを持つ世帯について、週平均の1日当たりの家事関連時間(家事、介護・看護、育児、買い物)をみると、夫が1時間23分、妻が7時間34分となっている。父親が夕食時間にあわせて帰宅できれば、夕食の準備・片付けが1回で完了し、夕食の片付けや夕食後に予定される育児(入浴や寝かしつけ等)を父親が分担することも可能となる。

 では、父親が特に平日に、家族と夕食を共にできるようにするためにはどうすれば良いのだろうか。本連載計4回を通じて、未就学児と同居しながら働く父親に焦点を当て、どのような父親が家族と夕食を食べているのかを明らかにすることを通じて、父親が家族と夕食を共にできるようになるための手がかりをみつけることとしたい。

2 家族との夕食回数の現状~未就学児の父親の、家族との夕食回数は月当たり平均12回

 連載1回目では、まず、未就学児の父親の家族との夕食回数の現状を概観しておきたい。分析に使用するデータは電機連合が2017年5~6月にかけて組合員1万86名および管理職605名を対象として実施した「『ライフキャリア』に関するアンケート」である。電機連合傘下の各企業別組合を経由して、調査票の配布・回収が行われた。有効回答は組合員8399名(有効回答率83.3%)、管理職547名(同90.4%)の計8946名である。

 調査では、「あなたは、家族と一緒に夕食をとる日が1ヵ月に何日くらいありますか。ここ1年の平均的な月をイメージしてご記入ください。」とたずねているので、この回答結果をもとに家族との夕食回数をみていくこととしたい(表1)。なお、調査では夕食回数を選択肢でたずねていることから、数値データとして分析する場合には、「まったくない」を0回、「月1~2回」を1.5回、「月3~4回」を3.5回、「月5~9回」を7回、「月10~14回」を12回、「月15~19回」を17回、「月20回以上」を25回として作成した新しい変数を使用する。

 全体では「月20回以上」(22.9%)、「まったくない」(20.3%)、「月5~9回」(19.1%)が僅差で上位3位となっており、平均値は10.7回である。無業者やあらゆる就業形態の20歳以上を対象とし、男性より女性の回答者のほうが多い前述の農林水産省の調査に比べて、家族との夕食回数が少ないことに留意する必要がある。これは、分析に使用した調査が「組合員と管理職」を対象としており正社員が大部分を占めること、回答者に占める女性の構成比が少ないこと(男性が7194件、女性が1737件)が影響していると考えられる。

 家族との夕食回数を男女別にみると、女性は「月20回以上」が36.8%にのぼり、平均値も13.3回となっている。同居家族タイプ別にみると、「いない(単身赴任を含む)」では「まったくない」が67.9%を占め、平均値は1.5回となっている。これ以外の同居家族タイプで平均値を比較すると、「配偶者(配偶者と親・その他を含む)」が16.5回と最も多い。逆に「親・その他」(12.9回)、「配偶者と子ども」(13.6回)が少なくなっている。

 子どもと同居していない「配偶者」で夕食回数が多いのは、大人同士であることから、夕食の時間帯や場所を柔軟に設定しやすいためではないかと考えられる。逆に「親・その他」で夕食回数が少ないのは、同居家族以外のネットワークを形成しようとしている独身者の影響もあると推測される。

 育児・家事の負担が大きく、その多くを母親が担っている家庭において、家族と夕食を共にしたいという父親の希望を実現するためにはどうすればよいのかという点が、筆者の一番の問題意識である。そういう意味で、「配偶者と子ども」の夕食回数の少なさが気にかかるところである。そこでさらに、未就学児および配偶者と同居している父親(1560件)に絞って、家族との夕食回数をみてみると、平均値は「親・その他」よりさらに低い12.4回にとどまっている。同居家族に未就学児がいると、夕食の時間帯が早く、場所も自宅もしくは自宅付近に限定されがちであることから、平日に父親が家族と夕食を共にするハードルがより高くなっていることが懸念される。

表1 家族と一緒に夕食をとる回数(1ヵ月当たり)sc190218.png

注1.同居家族については、一緒に住んでいる家族を複数回答でたずねた結果をもとに以下のように分類した。
① いない(単身赴任を含む):「いない(単身赴任を含む)」を選択した者
② 親・その他:「親」「その他」のいずれかのみを選択した者
③ 配偶者(配偶者と親・その他を含む):「配偶者」のみ、あるいは「配偶者」と「親」もしくは「その他」を選択した者
④ 配偶者と子ども:「配偶者」と「子ども(未就学)」「子ども(小中高)」「子ども(大学・専門学校など)」「子ども(社会人など)」のいずれかを選択し、「親」も「その他」も選択しなかった者
⑤ 配偶者と子どもと親・その他:「配偶者」と、「子ども(未就学)」「子ども(小中高)」「子ども(大学・専門学校など)」「子ども(社会人など)」のいずれかと、「親」もしくは「その他」を選択した者
⑥ その他の家族構成:上記以外のタイプ
注2.本稿で主な分析対象とする「未就学児および配偶者と同居している父親」は、配偶者と同居しており(同居家族タイプが「配偶者と子ども」もしくは「配偶者と子どもと親・その他」)、同居末子が未就学の男性を指す。
(出所)電機連合「『ライフキャリア』に関するアンケート」より。


 

【引用文献】
農林水産省(2017)『食育に関する意識調査報告書』. 
電機連合(2018)『ライフキャリア研究会報告』電機総研研究報告書シリーズNo.17.
松浦民恵(2018)「父親の家族との夕食回数-仕事と仕事以外の『けじめ』意識は夕食回数に影響するか-」『生涯学習とキャリアデザイン』(2018年度法政大学キャリアデザイン学会紀要)Voi.16 No.1, pp.113-127.
村田ひろ子・政木みき(2016)「家族と食の関係は変わるのか~「食生活に関する世論調査」から②~」『放送研究と調査』(2016年11月号), pp.2-19.
電機連合(2018)『「ライフキャリア」に関するアンケート調査報告書(調査時報No.430)』.
 

1:本連載は松浦民恵(2018)を元に、一部加筆・変更して執筆したものである。執筆に当たっては、電機連合に設置された「ライフキャリア研究会」(主査:佐藤博樹中央大学大学院教授)の皆様から有益なアドバイスを頂いた。また、「『ライフキャリア』に関するアンケート」の分析においては、調査の実施主体である電機連合、調査の集計・分析を委託された労働調査協議会からご支援頂いた。ここに記して御礼申し上げたい。もちろん、本章における主張は筆者の見解であり、誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
2:全国16歳以上3600人を対象として、2016年2~3月にかけて実施された。有効回収2484人(有効回収率69.0%)。
3:村田ひろ子・政木みき(2016)より。
4:全国20歳以上3000人を対象として、2016年11月に訪問調査によって実施された。有効回収は1874人(有効回収率62.5%)で、男性828人、女性1046人から構成される。
5:農林水産省(2017)より。
6:全国の2001年1月および7月の一定期間に出生した子どもを対象とするパネル調査。第5回は2005年と2006年に、対象となる子どもが4歳6ヵ月のタイミングにあわせて実施された。第5回の対象は4万3559人で、うち回収数は3万9809人(回収率91.4%)である。
7:各組合の実在組合員数に応じて、10名を下限として配布数が割り当てられている(10名に満たない場合は全員分)。管理職については比較的規模の大きいところを中心に、実在数に応じて5名を下限として配布が依頼された。

 

 

松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年からニッセイ基礎研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。17年4月から法政大学キャリアデザイン学部准教授。専門は人的資源管理論、労働政策。厚生労働省の労働政策審議会の部会や研究会などで委員を務める。著書、論文、講演など多数。

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