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2020年2月17日

川崎健一郎・アデコ社長に聞く

「働く人たちのキャリア開発、さらに進める」

 企業内の「同一労働同一賃金」に関連する改正法の施行が4月に迫っている。また、少子高齢化を背景にした労働人口の減少が進む中、副業・兼業の促進や女性・シニアが活躍できる環境づくりも労働市場の課題となっており、一翼を担う派遣事業者の動向が注目されている。「キャリア開発」に着目して事業展開してきた総合人材サービス・アデコグループの川崎健一郎社長に、これからの「働き方」を見据えた取り組みや展望を聞いた。(聞き手=大野博司、本間俊典)

―― 働き方改革関連法が昨年から順次施行されています。これまでの日本の労働・雇用の見直し・修正が進んでいますが、この変化をどのように捉えていますか。

川崎 企業にとって、労働コストや人事管理面などで一時的には大変だと思いますが、基本的には良い方向に向かうと思います。日本は今後、労働人口が減ることは間違いないわけですから、それを補うAI、RPAといったテクノロジーの進歩が重要です。しかし、それだけで生産性が上るとは思えません。働く人々、まさに「人財」のマインドが向上しなければならず、今回の一連の法改正もマインドの向上につなげなければなりません。

―― アデコは2016年から5年間の中期計画で「キャリア開発」をキーワードに、派遣社員を含む「人財」の支援に取り組んできました。

sc200217.jpg川崎 着実に成果が表れています。私がアデコ社長に就任した14年当時、事務系派遣スタッフのキャリアパスについて、派遣元の社員も派遣社員も意識が十分ではありませんでした。人材派遣という仕事は派遣先企業のオーダーを受けて、それに見合う条件のスタッフを登録者の中から探して送り出す。派遣元の現場はその流れを無事にこなすことにエネルギーを注いでしまい、キャリアの重要性について考えることが抜け落ちていたのでしょう。

 しかし、それでは派遣社員のモチベーションは上がらず、賃金などの待遇向上も望めません。派遣先企業にとっても、せっかく慣れてきた派遣社員にもう一段レベルの高い業務を任せたいと思っても、スキル面や契約の上でそれができない。労働人口が潤沢で、派遣希望者が多いときならともかく、今後の人口減少を考えると、キャリア開発が絶対に必要になると痛感しました。

―― 具体的にどのような方策を講じたのですか。

川崎 派遣業務ごとにスキル区分する「キャリアマップ」を作って、個々の派遣社員がどの段階にいるかを可視化し、どのようにキャリア開発を進めていけば良いかわかるようにしました。社長を務めていた無期雇用型エンジニア派遣のVSNで12年から活用してきた仕組みであり、その効果は実証済みでした。派遣社員の「職種分類」と「スキルの段階」を縦横に組み合わせたもので、自分が今、あらゆる仕事の全体像の中でどの位置にいて、これからどこを目指すべきかが一目でわかるマップです。

 このマップを活用すれば、進むべきキャリアの道筋を示すことができます。派遣先企業も共通の指標として求めるレベルを確認できるため、より精度の高いマッチングを実現しています。また、派遣社員のキャリア開発を専門に担当する「キャリアコーチ」を置きました。担当の派遣社員が仕事を探しているときは価値観に寄り添いながら適職に導き、就業中は評価フィードバックのほか、モチベーションアップのためのコーチング、定期的なキャリアコンサルティング、研修のサポート等によってキャリア開発をサポートしています。

―― いわゆる「同一労働同一賃金」に基づき、抜本改正となる派遣法が4月に施行されます。

川崎 働くモチベーションという点では、正社員もその他すべての雇用形態も同じで、賃金というのはひとつの大きな要因となり得ますし、モチベーションが高まれば生産性にも良い影響を及ぼします。一時的にはコスト増となるのは否めませんが、それを上回る生産性の向上に資するはずです。当社も、そのつもりで事業に取り組みます。

 アデコにとって中期計画は今年が最後の年になりますから、次の「2025年プラン」を策定中で、今夏には発表する予定です。これまでのキャリア開発を土台に、停滞産業から成長産業への「人財」シフトなども視野に入れた、一層の生産性向上を図るようブラッシュアップした内容にするつもりです。

―― 通年採用、中途採用の流れも活発化しています。こうした動きをどうみて、どう対応していますか。

川崎 確かに以前に比べれば転職のハードルは格段に低くなり、最近では40代や50代の転職も増えてきていますが、もっと活発になっても良いはずだと考えています。終身雇用、年功序列の雇用慣行がまだ根強いのでしょう。米国グーグル社を訪問した時に感じたことですが、社員の在籍年数が想像していたよりもずっと短いうえ、多様な分野から「人財」が集まっています。

 社会を動かすようなイノベーション(技術革新)を起こすには、同質の顔ぶれではなく、異質な分野の『人財」がぶつかり合って“化学反応”を起こすことが必要になると強く感じました。ライフスタイルとライフステージの多様化をサポートしつつ、日本の雇用慣行の良い部分と融合させながら企業が新たな戦略に挑戦できるよう、求められる総合人材サービス会社として磨きをかけていきます。

(おわり) 

 

川崎 健一郎氏(かわさき・けんいちろう)1976年、東京都出身。99年3月、青山学院大学理工学部卒、同年4月にベンチャーセーフネット(現VSN)入社。IT事業部長、常務、専務などを経て2010年3月より社長兼CEO。12年3月にアデコ取締役を兼任、14年6月からアデコ社長。

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