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2022年3月21日

長期停滞を抜け出せない個人消費

貯蓄だけが積み上がる家計の異常

 国内の消費活動が長年にわたって低調に推移している。新型コロナウイルス感染の長期化が拍車を掛け、今年はウクライナ情勢が加わったことから、消費者心理をさらに冷え込ませる懸念が強まっているが、一方で、賃上げムードの春闘など明るい展望も垣間見える。(報道局)

 総務省の家計調査によると、2021年の年間平均消費支出月額(2人以上世帯)は27万9024円で、前年比0.4%増、物価上昇を差し引いた実質比0.7%増となった。コロナ禍で緊急事態宣言などが繰り返された20年が実質同5.3%減と大きく落ち込んだ反動増という側面が強く、伸び率もわずかで、コロナ前の19年よりまだ5%近く落ち込んでいる。

 支出額の大きい費目別の実質増減をみると、「教育」が授業料などの値上げによって同15.7%増と大きく伸びたのをはじめ、「交通・通信」が同4.7%増、「住居」が家賃値上げなどで同3.4%増に。一方、「家具・家事用品」が耐久財の買い控えなどで同6.4%減となり、「高熱・水道」も同2.7%減、最も支出額の大きい「食料」も同1.0%減と日常的な生活用品やサービスへの支出減が目立った。

 年明けの今年1月は28万7801円(前年同月比6.9%増)と大きく伸びたが、やはり1年前が同6.0%減と落ち込んだ反動増によるもの。和食や飲酒などの外食費、宿泊などの教養娯楽サービス費、鉄道運賃や高速道路料金などの交通費が伸びており、コロナで落ち込んだ反動増が主要因となっている。

sc220321.png 実は、コロナ前から消費支出は長年にわたって停滞が続いていた。この10年間だけをみても、支出の実額は伸びてもせいぜい1%前後であり、14年から5年間はほとんど横ばいで実質マイナスという低調ぶりだ=グラフ。その理由は明らかで、給料などの収入が上がらなかったため。21年の場合、2人世帯以上の実収入額は平均60万5316円で前年比0.4%減だった。この10年の増減をみると、12年は同1.6%増だったが、それ以降は増えても1%以下で、14、18、21年はマイナスとなった。収入が伸びなければ支出も伸びないのは当然の結果だ。

 とりわけ、20年は実収入が特別定額給付金の10万円支給などによって同4.0%伸びたにもかかわらず、支出は逆に同5.3%減った。コロナ対応で厳しい外出制限が敷かれ、飲食店などの休業などが相次いで、多くの世帯が支出抑制に傾いたため。消費喚起を目的にした10万円の給付はカラ振りに終わったとの評価が支配的だ。

 収入が伸びて支出が減れば貯蓄などが増える。実際、日銀によると20年末の家計の金融資産残高は1936兆円(前年比2.5%増)、21年末には2023兆円(同4.5%増)と初めて2000兆円を突破した。その半分は現金・預金で同3.3%伸びている。

 20年は政府が10万円給付を実施し、21年は外出規制などが徐々に緩和されて人出が増えたにもかかわらず、消費の回復には結び付かなかった。欧米諸国に比べると、日本は感染者数がはるかに少ないが、それは医療体制がぜい弱で、ワクチン接種も遅れがちだったため、国民の外出自粛の意識が根強かったためと言える。同時に、心理的にも消費意欲が高まる流れには結び付きにくい。

 この心理は今年に入って強まりつつある。原油高騰に伴う物価上昇に、ウクライナ情勢の悪化が加わり、内閣府の景気ウォッチャー調査(街角景気)が悪化しているからだ。足元の景況感を表す現状景気判断指数は昨年10~12月の3カ月は50台半ばだったが、今年1月は37.9、2月も37.7と落ち込んでいる。中でも小売り、飲食、サービスなどを含む家計動向関連指数が1月の34.5、2月の33.7と落ち込みが大きい。同調査は50が好不況の分かれ目として、消費者心理をかなり正確に反映している。

コロナ収束、春闘回答に明かり

 ただ、コロナ禍を割り引いても、家計の消費意欲を高めるには所得水準の大幅な向上が必要なことは、この10年間のトレンドが物語っている。それを打破するカギとしてコロナ収束の見通しと、現在進行中の春闘の行方が挙げられる。

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