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2022年7月18日

副業・兼業容認へ企業は動くか

ガイドライン改定の効果は?

 厚生労働省が7月に告示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定版は、企業に対して従業員の副業・兼業を認めているかどうか、認めていない場合はその理由を開示するよう求めている。それ自体は大きな改定ではないが、日本企業に根強い正社員中心の「メンバーシップ型」労働慣行に風穴をあける試みの一つとして注目される。(報道局)

 副業・兼業については2018年1月に策定したガイドラインですでに枠組みを示しており、20年9月には複数の企業で仕事をする場合の労働時間の通算管理方法を明瞭化。会社員の副業・兼業は原則自由なこと、企業側は社員が「企業秘密の保持」などの要件を満たしていれば、禁止や制限はできないことなどを定めている。副業・兼業の可否は基本的には法律で決めるものではなく、各企業の裁量に任され、就業規則で定めているのが一般的。法的には本業と副業を通算した労働時間管理や労働安全衛生上の責任の所在などに限定される。

 政府が副業・兼業を推進する理由は「労働者が適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図ることを促進するため」であり、副業・兼業を通じて成長分野への人材移動を促す狙いがあるものの、広がりは鈍い。このため、岸田政権が今年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン」の中に「副業・兼業の拡大」を盛り込み、企業に対して情報開示を促すことにしたもの。来年の3月期決算企業の発表から本格的に始まる見通しだ。

sc220718.png しかし、促進に向けたハードルは高い、その理由は大きく二つある。一つは、労務管理の複雑化などを懸念して後ろ向きの企業の多いこと。パーソル総研が実施している継続調査によると、2021年時点で正社員の副業を容認している企業は「全面容認」が23.7%(18年比9.3ポイント増)、「条件付き容認」が31.3%(同5.5ポイント減)、「全面禁止」が45.1%(同3.7ポイント減)となった。「全面」と「条件付き」を合わせると、容認企業の比率は55.0%になり、3年前より3.8ポイント増えている=グラフ

 この調査対象には副業・兼業に比較的寛容な企業が多く含まれているとみられ、労働政策研究・研修機構の18年時調査では「許可する予定はない」企業が75.8%、経団連の21年時調査でも「認めていない」企業が78%の多数を占めており、こちらの方が実態に近いとみられる。

 副業・兼業を認めない理由としてはいずれの調査でも、「過重労働となって本業に支障をきたす」「労働時間の管理・把握が困難」というものが圧倒的に多いが、今後は「なぜ本業に支障をきたすのか」「なぜ労働時間の管理ができないのか」といった、具体的な説明を求められることになる。本業に支障をきたすのは元々の労働時間が長いため、労働時間管理ができないのは管理システムが遅れているため、ということも考えられるからだ。

 戦後、多くの日本企業は終身雇用と年功序列を前提にした「メンバーシップ型」の労働慣行を中心に据えてきたため、社員のキャリアアップや賃金アップなどは自社内で"完結"できたが、もはやそれが不可能になってきたことを認めようとしない姿勢が見え隠れする。

 一方、社員の側にも問題がある。パーソル総研による正社員調査では、「副業をしている」は9.3%、「過去に副業をしたことがある」が9.5%に過ぎない。8割以上はしたことがないものの、今後については「副業の意向がある」が40.2%にのぼり、「副業の意向はない」の33.6%を上回っていることから、副業への関心はかなり高いことが推定される。

働く側の関心はもっぱら「収入増」

 ただ、副業をしたい理由(複数回答)としては、「副収入を得たい」が70.4%、「現在の収入に不安」が61.2%、「本業の収入だけでは不十分」が59.8%と収入がらみが上位3を占めており、「活躍の場を広げたい」の50.0%、「本業では得られないスキル、経験をしたい」の48.9%といったキャリア形成に対する意識を圧倒的に上回っている。

 正社員の多くは非正規社員に比べると収入は相対的に高いが...

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