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2023年3月13日

労働局と労働基準監督署が連携、企業への指導を強化

同一労働同一賃金の現状についてもチェック

 同一労働同一賃金を徹底するため、厚生労働省は、都道府県労働局と労働基準監督署の連携による企業への指導強化に乗り出した。労基署の労働基準監督官が、企業へ訪問調査をする際に、同一労働同一賃金の現状についてもチェックし、労働局へ情報を提供。労働局は、この情報を基に、より積極的に助言・指導し、正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇差の解消を目指す。マンパワーを確保するため、全国に現在約3000人いる労働基準監督官を52人増員する。(特定社会保険労務士 安田武晴)

 労働局と労基署の連携は、2022年10月28日に閣議決定された政府の「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」に盛り込まれた。パートやアルバイト、契約社員の賃金を改善し、構造的な賃上げにつなげる狙いがある。

 同一労働同一賃金は、大企業では20年4月、中小企業では21年4月に施行された。違反が疑われる企業に対しては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が、パート・有期雇用労働法に基づき報告を求め、指導する権限を持っている。ただ、雇用環境・均等部(室)は各都道府県に一つしかない。そこで厚労省は、同一労働同一賃金の徹底に向け、全国に321カ所あり、面的に活動している労基署の力を借りることにした。

同一労働同一賃金のチェックシートを労働局と共有

 この取り組みがメディアで報じられた際、「同一労働同一賃金違反を、労基署が取り締まるのか?」と誤解した向きも多かった。実際には、指導権限を持つのは、これまで通り労働局となる。1月23日の労働政策審議会雇用環境・均等分科会でも、厚労省の担当課長が「パート・有期雇用労働法に基づく権限自体は労働局にある。労基署はあくまでも、事実関係の確認や聴き取りを行い、それをふまえて、改めて雇用環境・均等部(室)で、実際に待遇に不合理な格差がないか、より詳細に聴き取ったうえで、必要があれば助言・指導を行う」と話した。

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(図)労働局と労働基準監督署の連携スキーム(厚労省の資料より)

 労基署の労働基準監督官は、定期監督などで日常的に企業を訪問している。そこで、企業へ行った際に、同一労働同一賃金に関するチェックシートを配って回収し、雇用環境・均等部(室)と共有する。チェックシートの中身は明らかにされていないが、正規雇用、非正規雇用それぞれに、基本給、手当、昇給、賞与、休暇などの労働条件がどうなっているのかを確認する内容とみられる。チェックシートを使った情報収集は、労働基準監督官を新たに増員する労基署だけでなく、全国すべての労基署で幅広く行う。

 労基署は、チェックシートで集めた情報を労働局へ提供し、雇用環境・均等部(室)がその情報を活用して、同一労働同一賃金の違反が疑われる企業を選定。報告を求め、違反が確認されれば是正に向けた指導や助言をする。また、違反とまでは言えないが、改善が必要な企業には、厚労省の民間委託事業「働き方改革推進支援センター」の無料相談・コンサルティングを受けるよう勧める。厚労省は、雇用環境・均等部(室)の業務量増加に対応するため、労働局の雇用均等指導員も増員する。

 全国の雇用環境・均等部(室)では21年度、計6377社に雇用管理面の実態報告を求め、このうちパート・有期雇用労働法違反が確認された4470 社(70.1%)に、1万738件の是正指導を行った。ただ、同一労働同一賃金が中小企業に適用された初年度ということもあってか、1万738件の是正指導のうち、不合理な待遇差の禁止に関わるものは216件にとどまった。労働局と労基署の連携が進めば、是正指導の件数増加や、より実効性の高い指導につながりそうだ。

同一労働同一賃金、対応鈍い中小企業

 正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇差の禁止については、大企業でも十分とは言えず、中小企業ではさらに対応が遅れている。同一労働同一賃金の施行は、ちょうどコロナウイルス感染拡大の時期と重なった。東京都内の中小介護事業所の経営者は、「コロナウイルスへの対応に追われ、同一労働同一賃金については、すっかり後回しになっている」と明かす。別の小売業経営者は「民事訴訟に発展するなど、同一労働同一賃金は複雑なイメージがある。中小企業の経営者の多くは、理解するのさえ難しい」と話す。

 マイナビが実施した「非正規雇用の給与・待遇に関する企業調査(2022年)」の結果からも、中小企業の対応の遅れが見て取れる。この調査では、基本給、賞与、手当など項目別に同一労働同一賃金への対応状況を質問。対応済みと答えた割合は、「基本給」については大企業(正社員300人以上)が50.8%だったのに対し、中小企業(同300人未満)は37.0%。「賞与」は大企業37.0%、中小企業26.9%、「時間外、深夜、休日労働手当の割増率」については大企業39.4%、中小企業27.8%、「在宅勤務手当」は大企業29.8%、中小企業14.8%だった。

 マイナビの同調査では、非正規労働者の給与を上げた理由についても質問。「正社員との不合理な待遇差改善のため」と答えた割合は、契約社員の給与アップについては34.5%で、「人材確保が難しくなったため」「既存社員のモチベーションアップのため」(どちらも37.9%)の次に多かった。しかし、アルバイトの給与アップでは、「正社員との不合理な待遇差改善のため」と答えた割合は25.3%にとどまり、「人材確保が難しくなったため」(42.1%)、「既存社員のモチベーションアップのため」(36.5%)などと比べ、かなり低かった。

 また、同一労働同一賃金については、労働者の側にも根本的な部分で誤解があるようだ。ある社会保険労務士が受けた相談事例では、アルバイト従業員が、「部長と私は同じ部署で働いているのだから、1時間あたりの賃金が同額でなければ、同一労働同一賃金に違反するのではないか?」と訴えたという。

 労使ともに理解が進んでいない同一労働同一賃金。労働局と労基署の「連携プレー」には、違反企業への改善指導だけでなく、同一労働同一賃金の意義を社会全体へ広く浸透させる点でも、期待が寄せられそうだ。

【同一労働同一賃金】同じ企業の正規雇用と非正規雇用の間で、賃金、福利厚生、教育訓練などの待遇について不合理な格差をなくし、雇用形態にかかわらず公平に処遇すること。「仕事が同じなら、待遇も同じでなければならない」のではなく、業務の内容、責任の程度、配置換えや転勤の有無などが異なる場合には、合理的な範囲内で待遇差が認められる。

(了)


安田武晴(やすだ・たけはる)
1969年、東京生まれ。94年に読売新聞東京本社に入社し、記者として25年間活動。主に、介護や障害者福祉、社会保険の分野を取材。2013年に社会保険労務士国家試験に合格。20年に同社退社後、社会保険労務士事務所オフィスオメガを設立。中小企業の労務管理、助成金事務代行、介護事業所や障害者支援事業所の処遇改善加算取得支援などを行っている。20~22年には厚生労働省委託の労働相談事業にもかかわった。

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