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2023年6月19日

障害者雇用総合コンサルティング「スタートライン」社長の西村賢治氏に聞く(上)

「定着」を重視、そのカギは「相互理解」

 障害者雇用をめぐる法整備が拡充し、包摂的社会の意識が広がるなか、民間企業の取り組みと対応が注目されている。厚生労働省は2023~27年度の5年間を対象とする「障害者雇用対策基本方針」を策定。障害者雇用の質の向上や就労ニーズを踏まえた働き方の推進などを新たに盛り込み、企業の責務を明確化した。来年4月には法定雇用率の段階的引き上げや短時間労働者の適用拡大などがスタート。就労拡大が一段と進む見通しだが、就労希望者の選択肢拡大やとりわけ精神障害者の定着率向上など課題が山積している。

 こうした変化を目前に控え、企業の障害者雇用をサポートする「障害者雇用支援ビジネス」にもスポットがあたっている。今年3月末現在で利用企業は延べ1081社以上、就業障害者は6568人を超える。企業の取り組みが新たなフェーズを迎えたいま、同ビジネスを展開するスタートラインの西村賢治社長に障害者雇用を取り巻く実態や就労促進に向けた企業の向き合い方などついて聞いた。(聞き手=大野博司、撮影=山下裕之) ※(下)は6月21日(水)に掲載します。

――改正障害者雇用促進法など今の動きをどう捉えているか。

sc230619.JPG西村 短時間労働者の算定特例や障害者雇用調整金及び報奨金の見直しなどを含む改正法は、企業による雇用拡大の新たな契機となると受け止めている。また、可決・成立時の衆参の付帯決議には、雇用率の達成のみを目的とした障害者雇用支援ビジネスの安易な利用を防ぐことなどが記された。今春、厚生労働省が公表した障害者雇用支援ビジネスの実態把握調査で問題点と望ましい取り組み方を示しているが、その内容を丁寧にみていくと、その視点は私たちがこれまで企業と一緒に取り組んできたことと合致している。

 一方で、法の趣旨、労働法をも逸脱するような事業者の存在に不安を感じた。今回の改正の動きをきっかけに、私たちがサポートしている企業から採用や運営など実務面において従来以上に積極的に取り組んでいきたいという声が多く聞かれた。より丁寧に連携していくことが確認でき、法改正や付帯決議などを歓迎している。企業の関心がより高まる契機になったことは確かだ。

精神障害が増加、変わる現場の構図

――障害別の就職件数や定着率などの傾向や特徴を教えてほしい。

西村 厚生労働省によると、2022年に約60万人が民間企業で就労しており、身体障害が全体の約6割、残りの約4割を知的障害と精神障害が占める。ただ、新規の就労件数は身体障害が減少傾向にあり、精神障害が増加している。2018年に法定雇用率に精神障害を算入するという大きな変化があって以降、この流れが顕著だ。10数年前は身体が不自由な人の雇用を企業側でどうするかが最大のテーマだったが、現在までに配慮や支援というソフト面に加え、職場のバリアフリー化などハード面もかなり改善してきた。

 身体障害と知的障害を中心としてきた障害者雇用の現場は、精神障害の迎え入れに大きく構図が変わってきている。従来の方法や考え方だと1年後に活躍している精神障害者は半分にも満たない。私たちは、継続して安定的に働くことではじめて次の仕事や自身のキャリア、能力開発へとつながると考え、「定着」に重きを置いてきた。「定着」するための方策を構築するなかで、企業側と働く人の「相互理解」がカギになるとの解にたどり着いた。「相互理解」をいかにはぐくみ、企業も障害者の特性をつかんでお互いが理解し合えるかに力を注いできた。

「雇用」の切り口から体系的なアセスメントを研究

――「相互理解」と「定着」を実現するために必要なものは。

西村 「定着」を軸に据えた私たちも道のりは容易でなかった。就労する精神障害者と雇用する企業をサポートしようとしても手探りの面もあり、当事者と企業を支える当社の社員の双方で離職が相次ぎ、苦悩の毎日だった。真剣に向き合うなかで私たちは、想いや情熱だけではない障害者雇用ならではの「プロの技術」が必要だと気付いた。2014年、社内に障害者雇用研究所(現CBSヒューマンサポート研究所)を創設して、いわゆる「認知障害」に対する科学的なアプローチに迫り、客観的なエビデンスベースの支援体系を整えていくことに傾注した。それなしに相互理解は構築できない。

 そこで、「雇用」という視点から「認知障害」に対する客観的な基準に基づく評価の研究を進めた。これまで医学、福祉、心理という分野や学問からそれぞれアプローチした「認知障害」のアセスメントはあるが、「雇用」の切り口から体系的なアセスメントはなかった。兼ねてから障害者雇用を大切にする企業であっても、雇用の文脈でアセスメントを持ち合わせていないケースも多く、懸命に取り組んでいるものの、法定雇用率の達成度合いをみても企業全体の半分弱の企業に過ぎない。意識の高い企業でも、ノウハウや知見は目の前で接した人たちだけにとどまり、「定着」に紐づく働き続けるためのアセスメントづくりまで結びついていなかった。私たちは研究を重ねるなかで汎用性のあるアセスメントと支援方法を構築し、現在もさらに研究を続けている。


(つづく)


【株式会社スタートライン】
2009年設立、本社は東京都三鷹市。障害者の特性と企業の特徴を踏まえたマッチングで、任せる業務を切り出して雇用企業の社員と働く「障害者雇用支援サービスサポート付きサテライトオフィスINCLU」や障害者雇用で企業の新たな価値を創造する 「屋内農園型障害者雇用支援サービス IBUKI」を展開。導入企業数は260社以上、1660人超が雇用され定着率(1年)は90%強。障害者に関する医学的、福祉的、心理学的なそれぞれのアプローチを横断した「雇用視点」のアセスメントを独自に研究し、企業向けのオリジナル研修や各種セミナー、在宅雇用支援サービスなども手掛ける。社長の西村賢治(にしむら・けんじ)氏は滋賀県出身、54歳。


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