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2023年6月21日

障害者雇用総合コンサルティング「スタートライン」社長の西村賢治氏に聞く(下)

「働き方の選択肢と地域に働く場所を」

――障害者雇用の現状と企業の心構えは。

sc230621.JPG西村 身体や心などに何らかの障害がある人は国内に約900万人おり、障害者手帳を保持している労働力人口 は200万人ほど。このうち、福祉施設に通っている人が40万人弱。企業で働いている人は約60万人。まだ100万人前後が就労の可能性をもっているのに就労に至っていないことになる。企業側目線で言えば、できるだけ配慮が少なくて、より活躍できそうな人を採用したい。

 そうした企業論理が働くのは当然として、現実はいま、わずかなサポートで働ける人は既に大半が就職している。採用対象は身体障害から発達障害、精神障害にシフトしており、その中でも就職困難者とされる人たちを迎え入れないと障害者の就労拡大に向けた次なるステージは開けない。採用の難易度は年々高まっていることを企業は認識しないといけない。

約8割が現在の就労スタイルに肯定的

――実際に働いている人たちの体感は。

西村 今年2月に「屋内農園型」で働く人がどのように感じているか、455人の匿名アンケートを実施した。就業前や現在の状況、今後の希望などをうかがった結果、「いまの会社で続けたいか」の問いに68%が「続けたい」、13%が「いまの会社でキャリアアップしたい」と答え、計81%の人が現在の就労スタイルを肯定的にとらえていた。また、仕事のボリュームについて尋ねたところ、「ちょうどよい」が77%、「成長の実感はあるか」には「頻繁にある」が22%、「ときどき」は57%で約8割が実感を得ていることがうかがえた。

 今後の事業改善に活かすため、アンケート調査は率直で客観的な回答が得られるよう設計した。身体と知的と精神の障害種別に分けて実施したが、満足度に極端な差異はみられなかった。

――課題や工夫が必要な点は。

西村 「会社の役に立っている」と感じている人が過半数を超えている一方で、35%が「わからない」と回答した。この課題感は大きい。分析してみると、仕事を終えた後のフィードバックの回数に因果関係があることがみえてきた。利用企業の担当者とこの視点を共有し、日ごろのコミュニケーションの中でフィードバックを意識している。作業工程の中でできるようになったことを担当者と本人が確認し合い、次の成長を目指していくことが大切だ。

「障害者が社会の中で包摂されることが大事」

――障害者雇用が新たなフェーズに入っている。これからの障害者雇用のあり方を聞かせてほしい。

西村 障害者が社会の中で包摂されることが大事だと感じる。特例子会社が誕生して、いまでは企業の選択肢としてしっかり広がっている。福祉の分野からも特例は認知され、当事者からも選ばれている。社会に情報が周知されることが重要で、有限責任事業組合(LLP)や就労支援A型、B型、サテライトオフィス型、農園型などがそれぞれの地域にあれば、障害者の働く選択肢が増えていく。民間が創意工夫してアイデアを出していき、行政もこの方向を後押しする構図が社会に投影されていくことが望ましい。

 「障害者雇用支援ビジネス」だけでなく、さまざまな働く場所と働き方が地域にそろっている姿。障害者がその時々のライフステージや体調に合わせて選択することができればベストだ。「障害者雇用はこうあらねば」という固定観念ではなく、もっと柔軟に。当事者も他人と交わりたい人もそうでない人も、スキルを上げたい人も現状維持派も価値観を共有して肯定すべき。先人が築き上げた障害者雇用の頑張りに感謝しつつ今後はさらに良くするために、多種多様な事業者が関わり、業界が発展していくことが大事で、私たちはその一翼を担えるようにさらに奮起したい。


(おわり)


【株式会社スタートライン】
2009年設立、本社は東京都三鷹市。障害者の特性と企業の特徴を踏まえたマッチングで、任せる業務を切り出して雇用企業の社員と働く「障害者雇用支援サービスサポート付きサテライトオフィスINCLU」や障害者雇用で企業の新たな価値を創造する 「屋内農園型障害者雇用支援サービス IBUKI」を展開。導入企業数は260社以上、1660人超が雇用され定着率(1年)は90%強。障害者に関する医学的、福祉的、心理学的なそれぞれのアプローチを横断した「雇用視点」のアセスメントを独自に研究し、企業向けのオリジナル研修や各種セミナー、在宅雇用支援サービスなども手掛ける。社長の西村賢治(にしむら・けんじ)氏は滋賀県出身、54歳。


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