労働力人口が減少する中で、人手不足と賃金上昇の波が企業に押し寄せ、新規求人を減らして賃上げにシフトする企業が増えている。労働市場全体では完全雇用に近い水準が続いており、これ以上、労働力が大幅に増える可能性のないことが背景にある。(報道局)
厚生労働省の8月有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.02ポイント低下の1.20倍となり、今年の最低となった。"コロナ明け"の22年後半からは1.3倍台の高水準が続いたが、23年末ごろから徐々に倍率は下がり、24年は1.2倍後半で推移。今年も低下傾向が続いており、年内にも1.2倍台を切る可能性が出ている=グラフ。
その要因は企業側の求人数と求職者とも減り続ける中で、「求人数低下」のスピードが「求職者数」を上回っているためだ。8月の場合、有効求人数の約225万人(原数値、前年同月比3.6%減)に対して、有効求職者数も約190万人(同0.3%減)といずれも減少したが、求人数の減少の方が著しい。
求人数の場合、24年は毎月240万人台で推移。25年に入ると減少が目立ち、8月は約225万人まで減っている。求職者数も5、6月は200万人台だったが、7月は194万人、8月は190万人と減少が続いている。これを反映して、就職件数は4月の10.4万件から月を追うごとに減り続け、8月は7.4万件まで落ち込んだ。
求人倍率の先行指標となる新規求人倍率も低下が鮮明だ。22年後半から2.3倍台が1年ほど続いたが、23年後半から緩やかな低下傾向に入り、今年8月は2.15倍という21年当時の水準まで下がった。ただ、近年は民間の人材ビジネス経由で転職する人が若者層を中心に増えており、求人企業も人材ビジネスにシフトしていることが低下要因の一つになっているとみられる。
産業別にみると8月の場合は、「卸売・小売業」の12.7%減、「宿泊、飲食サービス業」の10.7%減、「生活関連サービス、娯楽業」の16.1%減など、雇用量の大きい労働集約産業の大幅減が目立った。求人数がダントツに多い「医療、福祉」でも3.4%減となっており(いずれも前年同月比)、人手不足にあえいでいるはずの産業でも新規求人を減らす企業が多いことを裏付けている。3年ほど前から急速に強まっている賃上げ圧力に耐え切れず、求人を諦める企業が散見される。
一方、総務省の労働力調査をみると、8月の就業者数は約6835万人(原数値、前年同月比20万人増)と37カ月連続の増加。完全失業者は約182万人(同7万人増)と13カ月ぶりに増えた。この結果、完全失業率(季節調整値)は前月比0.3ポイント上昇の2.6%に少し上昇したが、24年ごろから2.5%の水準を毎月上下する動きが今も続いている=グラフ。
完全失業率が2~3%の状態は「完全雇用」と呼ばれ、現在の日本はそれに該当している。元々、日本の失業率は国際的に非常に低く、「国民皆就労」の伝統が続いてきたが、近年は高齢者や女性の就労が増え、中核世代の減少を補っているのが実情だ。就業者に占める65歳以上の比率は、年初は13.5~13.8%で推移していたが、8月は14.0%とジワジワ膨らんでいる。
しかし、それも限界に近付いているようだ。全体の就業者が増え続けてきたのは確かだが、6月の6873万人でピークアウトした可能性が高く、7月は6850万人、8月も6835万人と減少が続いている。これが長期的な傾向になるかどうか、注意が必要だ。
8月の場合を産業別にみると、就業者の増えている産業は「医療、福祉」の17万人が最も多く、「教育・学習支援業」が12万人、「金融、保険」と「不動産等」が各11万人。逆に、「卸・小売業」は20万人、「製造業」が10万人、「建設業」も6万人減っている。雇用者が1000万人を超える最大産業である卸・小売業や製造業でリストラが進み、介護を中心とした医療・福祉業などに向かっている可能性を示唆している。
こうした産業間の労働移動に大きな役割を果たしているのが、紹介事業などの人材ビジネスだが、最近は人材が思うように集まらなくなり、求人広告を止める企業が増えている。求人メディア事業者で構成する全国求人情報協会が発表している8月の求人広告件数は226.4万件(前年同月比4.9%減)となり、初の減少となった。IT技術者や事務職が3割近く減ったのが主要因。件数は昨年4月からほぼ増加傾向をたどり、24年11月には282.7万件のピークを付けたが、その後は減少に転じ、25年になると伸び率も徐々に低下していた。
サービス産業の生産性向上がカギに
今後、労働人口を本格的に増やそうとすれば外国人に頼るしかないが、政治問題がからむため、...
※こちらの記事の全文は、有料会員限定の配信とさせていただいております。有料会員への入会をご検討の方は、右上の「会員限定メールサービス(triangle)」のバナーをクリックしていただき、まずはサンプルをご請求ください。「triangle」は法人向けのサービスです。