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2017年8月29日

【書評&時事コラム】『定年後』

身につまされる“定年ショック”

c170829.jpg著者・楠木 新
中公新書、定価780円+税

 

 このテーマの書がこれまでにも次々と出て、それなりに売れているということは、当事者となる人が増えているためであろう。本書もその流れに乗った1冊で、主なターゲットは65~74歳の「前期高齢者」、いわゆる団塊の世代だが、副題にあるように「50歳から準備が必要」ということのようだ。

 「人生は後半戦が勝負」という基本テーマに沿って、「第1章 全員が合格点」から「第7章 『死』から逆算してみる」の7章で構成。著者自身の定年ショック体験や友人知人の状況、第二の人生に踏み出したシニアの現実など、豊富な取材を基に、定年後にやって来るメリット、デメリットを的確に描き出している。そして、結論は「孤独」の克服にあるという。異議なし!

 著者は大手生命保険会社の出身で、在職中から「モノ書き」との二足のワラジを続けていることもあり、文章は非常に読みやすく、ニヤリとしたり、苦笑いしたりする当事者も多いのではないだろうか。内容は内館牧子氏の小説『終わった人』とほぼ同じで、新鮮味という点では物足りなさも残る。

 著者も含めて、定年後を持て余す人、残る人生を有意義に生きる人の岐路はともかく、これらの高齢者は大企業を卒業後もそれなりの退職金や年金が約束されている一部エリート層に限られる。定年に関係なく経済的理由でせっせと働き続けなければならない、あるいは生活保護の受給対象になる“中流以下”の高齢者には無縁のテーマとも映る。 (俊)

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