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2025年7月 3日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」285・2025年の年金制度改革⑤

Q 年金制度改革法案のうち、厚生年金の在職老齢年金制度の見直しについては、具体的にどのような内容でしょうか。

 年金制度改革法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が、6月13日の参院本会議で可決成立し、順次施行されます。今回は、以下の内容のうち、厚生年金保険等の在職老齢年金制度の見直しについて触れます。

1.被用者保険の適用拡大等
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ
5.私的年金制度の見直し など


koiwa24.png 厚生年金保険の「在職老齢年金制度」とは、働きながら年金を受給している高齢者について、一定のルールに基づいて年金の支給が調整される仕組みのことをいいます。従来の制度では、賃金と厚生年金の合計が月50万円(2024年度の場合)を超えると、超えた分の半額が支給停止となるため、働きながら年金を受ける人の就労意欲が損なわれるなどの弊害が指摘されていました。

 そこで今回の改正では、厚生年金が支給停止となる基準額が、月50万円から62万円(2024年度の場合)へ引き上げられることになりました。たとえば、賃金(ボーナスを含む年収の12分の1)が45万円、本来の厚生年金額が10万円の場合、45万円+10万円=55万円となるため、50万円を超えた5万円の半額の2万5000円が支給停止となり、いわゆる生活費は45万円+2万5000円=47万5000円となります。

 改正後は、賃金45万円+厚生年金額10万円=55万円は、支給停止となる基準額の62万円を超えないため、厚生年金は支給停止されることなく、満額が支給されることになります。この場合、賃金と年金額を合計した金額は55万円であり、賃金も年金額も同額であるにも関わらず、生活費は改正前に比べて7万5000円増えることになります。

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 人手不足が加速する中、あらゆる業種業態で高齢者雇用の重要性が高まっていることから、在職老齢年金制度によって高齢者の就労意欲が削がれている問題を是正することは急務だと考えられます。一方で、在職老齢年金制度の支給停止の基準額を大幅に引き上げると、結果として将来受ける年金の給付水準が低下するため、年金制度全体としてのバランス感覚が肝要な論点だといえます。前回触れた、標準報酬月額の上限の65万円から75万円への段階的引き上げなども含めてとらえると、全体としては妥当な改正の流れといえるかもしれません。

 高齢者雇用が増え、在職老齢年金の仕組みが適用される場面が増える中、企業の人事労務部門や所属長などへの実務的な相談や照会もさらに増えることが予想されます。基本的な在職老齢年金制度について理解しつつ、改正点を確実に押さえ、これからの実務対応に備えていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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