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2014年8月 4日

政府の労働時間規制見直しに対する連合の考え方(上)

「公労使3者構成」のILO原則からの逸脱を指摘

is140804.jpg 6月下旬に閣議決定した「日本再興戦略・改訂版」に盛り込まれた雇用改革。「労働時間規制の見直し」について主要4項目が挙がっており、政府は来年の通常国会を視野に関係法案を提出させる構えだ。今後、厚労相の諮問機関である労働政策審議会で議論を活発化させる。そうした中、政府の提起に強烈な警戒感を抱いているのが労政審の労働側委員の大半を占める連合(傘下の産別を含む)で、労使の激突は必至の情勢。8月1日の連合・緊急シンポジウム=写真=で挙がった意見や主張を基に、現状整理と連合側の「考え方」を検証する。(報道局長・大野博司)

労働時間規制見直しに関する現状整理

 「労働時間規制見直し」をキーワードに、「政府・経済界VS労働組合・民主党など一部野党」が労政審での本格議論へ向け、“前哨戦”を始めている。今年の年末にかけて山場を迎える議論の展開を見極めるため、まずは現状を簡潔に押さえておきたい。

 政府の規制改革会議やその中の雇用ワーキンググループ、また、今春以降急速に強烈な発信を始めた産業競争力会議(経済財政諮問会議の下部組織)など、政府直轄の複数の「会議体」が、それぞれ内閣府や内閣官房、関係省庁を所管(事務方)にして6月中旬までに意見や主張をまとめた。昨年6月に続く「第2弾」の提言となる。

 これらを基に、政府は6月24日、①経済財政運営の指針となる「骨太方針」、②新たな成長戦略となる「日本再興戦略の改訂版」、③「規制改革実施計画」の3本を閣議決定した。経済政策のアベノミクスをさらに強化して、デフレ脱却と経済再生のスピードを上げる狙いがあり、安倍首相は会見で「安倍内閣の成長戦略にタブーも聖域もない。日本経済が持つあらゆる可能性を開花させるため、いかなる壁も打ち破る」と決意を表明している。

 その「日本再興戦略の改訂版2014」に含まれている雇用改革の中でも、連合サイドは「労働時間規制見直し」に敏感に反応した。政府がこの種の提言や発信をすることは、これまで1年以上にわたる各会議体の動きや労政審の各種分科会・部会などで察知していた。ただ、今回のように閣議決定したうえで、各種法改正の時期も「来年の通常国会」などと明記した以上、連合も本格的に動き出した。

 連合が異論を持ってテーマにしたい案件は「解雇の金銭解決制度」など山積しているが、連合内外の意見集約と発信内容の混乱を避けるために、今回開催した緊急シンポジウムでは「労働時間規制の見直し」に絞ったと言える。他のテーマは別の機会にさまざまな手法で訴えていくと見られる。

連合の「考え方」をさらに補強し、新たに提起へ

  「労働時間規制の見直し」に着目すると、連合は政府の提起に対して以下のような見解や懸念を抱いている。連合は、政府が提言した労働規制改革について、既に「考え方」を整理しているが、本格論戦の山場は年末になるとあって、今回の緊急シンポにおける識者の意見や討論で浮き彫りとなった指摘も参考に、「考え方」を補強した「反論・主張」をあらためて近く打ち出す方針だ。現時点における連合の「考え方」を個別に整理すると以下のようになる。

政府提言の議論のテーブルに労働者代表がいない不信

 政府の各種会議は、「民間議員」「専門委員」といった呼称で有識者や研究者らの顔ぶれで構成され、実態として、時には民間議員の私見(ペーパー)が先行したり、複数の政府系の会議体の足並みがそろわなかったりしたこともある。

 しかし、連合が特に問題視している大前提は、いずれの政府系会議のテーブルにも労働者代表が入っていないという点だ。政府にすれば「後で公労使による労働政策審議会で議論することになるから(それ以前の会議体では不要)」という理屈だが、連合は「会議体の提言の土台、ベースとなるものが一方的な内容である以上、提言策定の段階から参加させないのはILOの(公労使による)3者構成原則に反する」との不満がまん延している。

4つの基本的な考え方

 連合の主張はまず、(1)労働時間規制が持つ意味として、今後とも労働者の健康・安全の確保と生活時間の保障という観点を基本とすべきと主張。(2)重視すべき視点に「実効性のある健康確保策を講じるとともに、ワークライフバランスの視点や企業間の公正競争の確保の視点も必要――と説いている。

 また、(3)集団的規制と個別同意に関して労働基準法は、法定労働時間を週40時間・1日8時間と定め、過半数労働組合などとの労使協定や労使委員会の決議によって、原則的な規制に対する例外を認めている。しかし、原則的規制に対する例外を認める場合には、今後とも、集団的規制と個別同意を適切に組み合わせることが必要――と強調。(4)実労働時間の規制が重要であり、使用者は安全・健康配慮義務を免れるものではないから「実労働時間の把握」が不可欠――との考えに立っている。

改正労基法第37条の中小企業への猶予措置の早期廃止

 「労働時間規制の見直し」に関しては、2008年の労基法改正で特に長い時間外労働を抑制するため、月60時間を超える時間外労働については50%以上の割増残業代が規定されたものの、中小企業への適用は猶予されたままで、企業ベースでは99.7%、雇用者ベースでも66.0%が猶予されている現状にある。

 連合は、月60時間を超える時間外労働の割増率について、ダブルスタンダードを放置している現状は解消すべきだとの立場から、「中小企業への適用猶予措置は早急に廃止する方向で法改正に臨むべき」と主張している。

時間外労働にかかる上限時間規制の導入

 「時間外労働限度基準」を法律へ格上げするとともに、特別条項付きの36(さぶろく)協定を適用する場合は、上限時間規制を法制化すべきだと強調。併せて、36協定を締結しない、または36協定で定める限度時間を超える時間外労働をさせた場合の罰則についての強化も主張している。

休息時間(勤務間インターバル)規制の導入

 労働者の健康確保を図る観点から、すべての労働者を対象に「休息時間(勤務間インターバル)規制を導入すべきと提唱。具体的には「24時間につき原則として連続11時間を保障すべき」とする一方、職場実態も考慮して「ただし、原則11時間という取り扱いを柔軟化できる措置は当面講じることが必要」としている。

年次有給休暇の取得促進

 年次有給休暇の問題は根深い。連合は、計画年休の活用を図り、労使による業務計画・体制の見直しを促進することが必要――としている。(つづく)

 

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