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2013年4月13日

【この1冊】『この国はどこで間違えたのか』

戦後の固定観念を離れると見えてくるもの

c130413.jpeg著書・佐高信、寺島実郎
光文社知恵の森文庫、定価743円+税

 

 国内派と国際派の、日本を代表する評論家による対談集。週刊誌に掲載したものに書下ろしを加え、タイトルも一新して文庫化した。現代の政治評論はもっぱら民主党政権の末期まで。

 第1章「加速する日本の劣化」から第8章「ネットワーク型の世界観へ」まで民主党政治、原発事故、戦後精神、現代知識人とリベラル哲学など、幅広く意見交換している。2人とも内外に豊かな人脈を持ち、近代史にも通じていることから、議論は骨太で示唆に富む。

 タイトルからもわかるように、2人とも戦後日本の進む道がいつ、どこで誤ってしまったのかという問題意識を強く持っており、佐高氏は政治経済のアマチュア化、寺島氏は米国一辺倒の国家体制が主要因だと論じる。いずれも、戦後の固定観念からの脱却をキーポイントに挙げる。

 領土問題でぎくしゃくしている日中韓の問題に対しても、「隣国になめられるな」程度のナショナリズムでは事態の改善はムリとして、「やはり一度は韓国や中国の側から見ないと、見えるものも見えません」と冷静だ。

 中でも、魯迅の日本留学時に日本語を熱心に教えた日本人教師、残留孤児を育てた中国の養父母らを例に挙げ、無名の人々の“努力”にこそ思いを馳せるべきだ、との指摘は非常に鋭い。

 2人とも戦後生まれの「先頭世代」とあって、世代論にはかなり敏感に反応する。それは、多大な同胞の犠牲を経た戦後復興と繁栄の恩恵に浴しながら、後続世代に何をバトンタッチできるのか、明確なメッセージを持てないまま年齢を重ねた「団塊の世代」に共通する意識かもしれない。 (のり)


 

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