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2014年6月14日

【この1冊】『中国とモンゴルのはざまで』

民族自決を夢見たモンゴル人革命家と中国の民族問題

c140614.png著者・楊 海英
岩波現代全書、定価2400円+税

 

 著者は『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録(上)(下)』(2009年・10年、岩波書店)で、司馬遼太郎賞を受賞し、一躍注目された中国・モンゴル自治区出身のモンゴル研究者である。「大野旭」という日本名も持つ。本書は、モンゴル民族の自決に奔走した20世紀の革命家、ウラーンフーの活動をたどりながら、中国の民族問題の根源を浮き彫りにした1冊。

 著者によれば、中国政府が被害者数を縮小して発表した公式見解の数字でも、文化大革命時代に「少数民族のモンゴル人全員が粛清の対象とされ、34万6000人が逮捕され,2万7900人が殺害され、12万人に身体障害が残った」という。

 中国では現在もモンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区などで少数民族に対する弾圧・粛清が日常的に繰り返されているが、その起源はチベット密教を主な宗教とする内モンゴルにおける1966年以降のモンゴル人虐殺であり、ウラーンフーが主張し続けた「民族自決主義」を中国共産党が否定し続けたため泥沼化した、というのが著者の見解である。なお、外モンゴルのモンゴル人の国、モンゴル人民共和国でもスターリン時代に粛清の嵐が吹き荒れ、多くのモンゴル人が虐殺された。

 日本の国技、大相撲の横綱が4代続けてモンゴル人によって占められる現在、日本は「民族自決主義」を支援するためにも、もっとモンゴル民族との政治的・経済的関係を強化すべきではなかろうか。それにより、対中国、対ロシア、対韓国との外交関係の行き詰まりを突破する有効な戦略的布石になるかもしれない。 (酒)

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