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2015年6月13日

【この1冊】『厚生労働省改造論』

「改造が必要」とは言うけれど……

c150613.jpg著者・秋葉 賢也
イースト新書、定価861円+税

 

 医療、介護、福祉、子育て支援、非正規労働者問題など、厚生労働省の抱える課題は拡大する一方で、巨大官庁特有の非効率さが目立ち、残業してもしても終わらない「厚労省=ブラック企業」論さえ登場している。この事態を何とかしなければ、まともな政策も打ち出せなくなる。そんな危機感に燃えて書いたのが本書だという。

 著者は自民党国会議員。第2次安倍内閣で厚生労働副大臣を務めた経験が下地にあり、厚労省が扱う法案の数、国会審議での答弁の多さ、メディアに取り上げられるダントツの頻度の割に、許認可など規制官庁としての性格が強いことから、政策立案が中途半端になりがち。政策官庁に変わるための「大改造」が必要というのが持論だ。

 具体的には、「厚生」と「労働」を切り離し、「労働」は経済政策とつながりの深い経済産業省の所管にする。子育て部門は、教育上の観点から文部科学省の所管にするなどを提案。しかし、それだけだ。その後の具体的な方策はない。書名を見て買った読者は肩透かしを食うに違いない。

 第一、労働問題を経産省の所管にしたら、「労働者保護」はどうなるのか。子育て部門の文科省移管も、「認定こども園」問題一つを取ってもわかるように、バカバカしいほどの壁がある。「改造」などと簡単に言ってもらっても、それがいかにむずかしいかを正直に書いた方が、読者のためになると思われる。ここはぜひ、具体的な「改造論」を第2弾として出すべきだ。

 それでも本書は、厚労省の抱える課題が国民生活にいかに密着していて、今の厚労省では「21世紀型の社会保障制度」の確立は難しそうだとの現実を浮かび上がらせている。問題点の指摘は、体験者ならではか。(のり)

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