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2018年7月31日

【書評&時事コラム】『里山奇談』

怖くて懐かしい日本の原風景

c180731.png著者・coco、日高トモキチ、玉川数
角川書店、定価1400円+税

 

 こう暑いと、読み物も「怪談」「ホラー」のジャンルに人気が集まる。しかし、評者のような小心者にとって、おどろおどろしい話はダメ。夜中にトイレにも行けなくなる。その点、本書は“ほどよい”怖さを味わえる。

 里山は深山と人里の中間にあり、農林業、昆虫・植物採集、魚釣りなど、人間の往来も結構あるが、同時に、不思議な現象にも満ちた一帯。本書は、3人の「生き物屋」が現地で収集、体験した不思議な話をまとめたという体裁をとっている。40篇の短編集で、どれも短く、読みやすい。

 「廃病院にて」などの怖いお話も多いが、お盆の「陰の膳」のようなほのぼの話もある。幼いころのキモ試し、使わなくなった古井戸伝説など、誰しも一つや二つは心当たりがありそうだ。これらが本当に事実かどうかは、どうでもいいのだ。1年前の出版だが、評判が良かったらしく、最近、続編も出た。

 里山という身近な自然も、近年は過疎化や高齢化で手入れが行き届かず、荒れ野と化している地域も増えているようだ。本書のような不思議な話も、減り行く里山とともに、姿を消していくのだろうか。寂しい気もする。(俊)

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