コラム記事一覧へ

2018年10月 9日

【書評&時事コラム】『日本型組織の病を考える』

冤罪被害をテコに始めた世直し

c181009.jpg著者・村木 厚子
角川新書、定価840円+税



 財務省の決裁文書改ざんや事務次官のセクハラ辞任など、あってはならない行政府の不祥事が続出しているが、著者はこれらを「日本型組織の病理」と位置付ける。自身が郵便不正事件で冤罪被害に遭った当事者であり、厚生労働行政を進めてきたキャリア官僚とあって、行政機構の実態を知ったうえでの指摘は鋭く、改革の方向性を強く示唆している。

 「国家の暴走に巻き込まれた日」から「闘いを支え続けてくれた家族へ」までの7章構成だが、圧巻はやはり逮捕から無罪確定までの記録。日本の司法組織の硬直性を示すエピソードが随所にあって、「病理」の源泉がどこにあるのか、わかりやすく書いている。さらに、それが司法の世界にとどまらず、多くの「日本型組織」に蔓延していることもわかる。

 しかし、今の著者にとっては、その後の活動の方が重要かもしれない。退官後に始めた「若草プロジェクト」や国家賠償金を充てた「共生社会を作る愛の基金」などの目覚ましい活動も、そのきっかけは拘置所暮らしの中で目にした犯罪少女たちの姿だったという。「タダでは起きない」というか、「恐るべき観察眼」というか。検察も大変な人を犯人にでっち上げたものである。

 退官後に民間活動に入ってみたら、官僚時代には見えなかったことがたくさんあったという。率直に語る著者の姿には、「地盤沈下」ばかりが指摘される霞が関の良心を感じさせ、官民問わずに読む者を勇気づける。(俊)
 

PAGETOP