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2018年10月16日

【書評&時事コラム】「新宿事件」から半世紀

 もう、社会から忘れ去られてしまったのか。10月21日の「国際反戦デー」。50年前のこの日夜、左翼系過激派集団が新宿東口から駅構内になだれ込み、投石・放火を繰り返して駅をマヒさせた。「騒乱罪」という治安系の罪状が初めて適用され、800人近い若者が逮捕された。新聞テレビも連日、大々的に報道した。

c181016.jpg 「国際反戦デー」の「反戦」とは反ベトナム戦争という意味。米国の対北ベトナム戦線が本格化していた時期で、世界規模の反戦運動が盛り上がった。日本でも、折からの大学紛争とシンクロして反戦運動が広がり、この日の大事件となった。その後も、東大安田講堂事件、新宿西口フォークゲリラ、沖縄返還問題と続き、日本全体が「政治の季節」にあった。新宿事件はその象徴だったといってよい。

 昨年秋、国立歴史民俗博物館で開かれた「1968年」では、当時の運動家たちがたくさん訪れ、「来年は50周年記念で盛り上がるだろう」と話す声が聞こえたが、残念ながら予想ははずれたようだ。現代社会の関心は、当時の運動の中心となった団塊の世代が「高齢者」となり、その医療・介護をどうするかに向けられている。半世紀後の現実がこれだった。

 新宿事件など一連の社会運動は、単なる若者のストレス発散に過ぎなかったのか。それで日本は変わったのか。自問自答しながら新宿周辺を歩くと、さんざん歌った「反戦フォーク」の大合唱が次々と浮かんでくる。いつも人込みで騒々しい西口広場でさえ、私には気味が悪いほど静かな空間に感じられた。(俊)
 

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