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2019年9月 3日

【ブック&コラム】漠然とした「就職氷河期世代」の"救済策"

 政府が今春、唐突にぶち上げた「就職氷河期世代」の支援。官邸に急かされて厚生労働省が6月に取りまとめた“救済策”は、30代半ばから40代半ばが対象の中心で、正社員として雇った企業への助成金拡充や企業や自治体と連携した職業訓練などを柱としている。この世代は長期不況が続いた時代の高校・大学卒業生らで、このうち今も不本意ながら不安定な仕事に就いている人に対して、今後3年間で30万人程度を正社員にする計画と聞く。

c190903.jpg 昨今、「就職氷河期時代」という言葉を頻繁に耳にするようになった。もちろん、バブル世代に比べれば就職が困難だったことは理解ができるものの、どこまで他の世代と異なる尋常でない悲哀を被ったのか、それを裏打ちした明確なデータは拝見したことがない。官邸が旗振り役となったことを受けて、先ごろ出そろった来年度予算の各省庁の概算要求は、厚労省や農林水産省、文部科学省、内閣府など6省を合わせて計1344億円に達している。かなりの力の入れようだが、本当にこの世代に緊急的な“大規模救済”が必要だったのであれば、06年に誕生した第一次安倍内閣で着手してもらいたかった。

 ハローワークに専門窓口を設置。人手不足の建設や運輸などを軸に、短期間で就職につながる資格取得コースの創設。就農前の研修や漁業関係機関の通信教育の充実…。急ごしらえのためか、新味に欠けた漠然とした支援メニューが並んでいるように映る。「支援策は不要」とは言わないが、政府の看板政策の割には3年という“時限対応”であることと、インパクトが薄い支援内容に官邸主導の気迫が今ひとつ伝わってこない。

 バブル崩壊後の1994年に社会人になった筆者は、現在、48歳から49歳になるあたり。十分に厳しい就職戦線だったと思い出すが、今回の支援策の中心世代からは少し上に外れる。新卒の就職難時代の話とは別だが、昨今、CMなどで耳にしたことのある名だたる企業で「40歳または45歳以上を対象にした早期希望退職」が相次いでいる。企業は生き残りをかけて40代以上の人員整理に舵を切っている。終身雇用の限界も公言し始めた。今回の氷河期世代の救済策は、そうした世代が置かれている実態や分析もそこそこに、「人材難の業種・職種に緊急避難的に人手を回したい」との浅い思惑も透けて見える。血税の使い道は安易に決めてほしくないものだ。(博)

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