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2019年9月17日

【ブック&コラム】『"歴史認識"とは何か~対立の構図を超えて』

日本の「良心」を体現した1冊

c190916.jpg著者・大沼 保昭
中公新書、定価840円+税

 

 日韓関係の悪化は“膠着状態”に入り、両国政府とも事態打開の一手を打ち出せそうにない。こんな時こそ、双方とも頭を冷やす必要があるが、本書はそれに最適の1冊。著者は世界的に知られた国際法学者で、「アジア女性基金」の設立も主導した人物だ。

 表題の通り、東京裁判、サンフランシスコ平和条約、戦争責任、慰安婦問題など、今まさに問題となっているテーマについて、非常にわかりやすく解説している。ジャーナリストの江川紹子さんの質問に著者が答える形式だが、質問が「東京裁判は“勝者の裁き”ではないのか」「70年以上も前の慰安婦問題を今なお批判され続けることに、釈然としない日本人も多い」など、多くの日本人が抱いている素朴な疑問や不満から入っている。

 それに対して、著者はそれぞれの歴史的背景を世界史的な視点から解説し、日本でも勢いを増しつつある「独善」を徹底的に排除。さらに、被害国の心情に触れると同時に、戦後日本が政府を中心に続けてきた「償い」についてもきちんと述べており、それが国際的に十分知られていないことを残念がる。韓国語の翻訳版がないものか、とつい思ってしまう。

 本書は4年前に出たものだが、内容はまったく色あせておらず、間違いなく日本の「良心」を体現している。残念なことに、著者は昨年10月、病で72歳の生涯を閉じたが、本書には今回の日韓関係の悪化から抜け出せるヒントが満載されている。「反日」と「嫌韓」の応酬だけでは前進はおぼつかない。著者のメッセージが強烈に伝わってくる。(俊)

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