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2019年10月 3日

中宮伸二郎社労士の「労務の心得」40・待遇決定方式の混在

Q 一つの派遣元事業所において、待遇決定方式について、労使協定方式と派遣先均衡均等方式の両方を採用することは可能でしょうか。

nakamiya03.png 可能ですが、制度の趣旨に反する運用は認められません。業務取扱要領において「全ての派遣労働者を一律に労使協定の対象とするのではなく、派遣労働者の職種、雇用期間の有無等の特性に応じて、労使協定の対象とするか否かを判断すべきものである」としていることから、一つの派遣元事業所に労使協定方式、派遣先均衡均等方式それぞれの対象者が混在することに何ら問題はありません。

 しかし、労使協定方式において労使協定の対象者を限定する場合、その理由を労使協定に記載する必要があります。そもそも、2方式をどのように適用するか決定するのは派遣元であることから、労使協定の対象者を「派遣先が労使協定の対象者の受け入れを希望する場合」と定めることはできないと考えられます。同時に労使協定の対象となる派遣社員の範囲を「賃金水準が高い企業に派遣する労働者」とすることは、労使協定方式を設けた趣旨に照らして適当ではないとされています。

 労使協定の対象となる派遣社員の範囲を定める場合は、客観的な基準でなければならないとされていることから、具体的に考えられる範囲の定め方は次のようなものが考えられます。

①職種によって範囲を定める
 例:プログラマーのみ協定対象者とする
   プログラマーについては、派遣先が変更される頻度が高いことから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐ等のため、労使協定の対象とする。
②労働契約期間によって範囲を定める
 例:無期雇用派遣社員のみ協定対象者にする
   無期雇用派遣社員ついては、長期の雇用、派遣先の変更が前提となることから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐ等のため、労使協定の対象とする。


 上記例以外にも、定年後再雇用制度により雇用されている者に限り派遣先均衡均等方式とすることや紹介予定派遣の場合に限り派遣先均衡均等方式とすることが考えられます。一つの派遣元事業所で、同じ職種、同じ雇用形態の派遣社員が、派遣先Aに派遣される場合、労使協定方式の適用を受け、派遣先Bに派遣される場合、派遣先方式の適用を受けるという労使協定の締結は、派遣社員の待遇を低くすることが目的ではないことが明らかにされる必要があるため、困難と思われます。

 

(中宮 伸二郎/社会保険労務士法人ユアサイド 代表社員)

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