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2019年12月17日

【ブック&コラム】『老いのゆくえ』

年を重ねても「発見」の日々

c191217.jpg著者・黒井 千次
中公新書、定価820円+税

 

 「高齢者」といわれても、大体は「後期高齢者が1800万人近くになった」「医療費の自己負担を1割から2割に」など、人口面や政策面から語られることが多く、当の高齢者が日ごろ何を考え、どんな生活を送っているかは、意外と知られていないようだ。何も考えず、何もしていないわけでもないはずだが。

 本書は、そんな高齢者がどんなことを思いながら日常生活を送っているかを綴った、高名作家のエッセイ集。「新旧の不自由を抱えて」から「老いることは知ること」まで、4部作の計56本。「老いのかたち」「老いの味わい」に次ぐシリーズ第3弾だ。今回は、もう80代半ばになっている。

 家の内外での転倒、運転免許の返納、散歩中の出来事、資料の整理、家の修理や自身の病院通いなど、時に暗示的に、時にユーモアを交え、平易に書き綴っている。同じ高齢者なら「そう、あるある」と思わずうなずいたり、ニヤっとしたりするはずだ。

 本書のように、普通の高齢者なら心で思うだけで、日々の生活に流されてしまうような思いを、わかりやすい活字で「形」にできる能力は誰にもあるというものではない。が、日記形式で日々の出来事を書きとめている高齢者は少なくないはず。こうした人々には大いに参考になりそうだ。いわゆる「脳トレ」にもなります。 (俊)

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