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2020年9月17日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」38・緊急事態宣言下における派遣契約と休業手当

Q 新型コロナウイルスの感染拡大により、今後秋冬にかけて「第2波」「第3波」が本格化する可能性も指摘されています。労働者派遣契約と休業手当の関係については、どのように考えたらよいですか。

koiwa.png 新型コロナウイルス感染症による「コロナ禍」では、派遣労働者が雇い止めされる「派遣切り」が深刻化し、今春は派遣契約の不更新が集中する「5月危機」が問題となりました。今後、緊急事態宣言が発令されるような場面で、派遣先による派遣契約の中途解除が行われた場合についてみてみましょう。

 派遣労働者の契約解除について、派遣法では「派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない」(第29条の2)とされ、派遣先指針では「派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならない」とされています。

 しかし、緊急事態宣言が発令されている状況では基本的には派遣元に休業手当の支払い義務は発生しないと考えられますので、「派遣先の責に帰すべき事由」には該当せず、派遣先は休業手当相当額の支払い義務は生じないと考えられます。ただし、派遣先指針の第2の6の(3)の「派遣先における就業機会の確保」は「派遣先の責に帰すべき事由」の有無に関わらずに求められるため、派遣先は関連会社での就業のあっせん等により、新たな就業機会の確保を図る必要があります。

 派遣労働者の休業をめぐる対応について、新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)の「9 労働者派遣」の「問3」では、以下のように回答されています(8月26日時点版)。

問3 (派遣先の方)改正新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言下で、都道府県知事からの要請・指示等を受け、事業を休止したことを理由として、労働者派遣契約の内容の変更等を行う場合に、派遣先は派遣会社から派遣料金や金銭補償を求められることになりますか。
 労働者派遣契約の履行を一時的に停止する場合や、労働時間や日数など労働者派遣契約の内容の一部を変更する場合には、それに伴う派遣料金等の取扱いについては、民事上の契約関係の話ですので、労働者派遣契約上の規定に基づき、派遣会社と派遣先でよく話し合い、対応してください。

 具体的には派遣契約の内容によることになりますが、今回のような不可抗力の事態に対して派遣先に派遣料金等を請求するような契約関係はあまり考えられないと思います。派遣元としては円満な話し合いで派遣先の理解と協力を得る努力が求められるでしょう。

 派遣契約においては、契約解除の条項はあっても「一時休業」については記載がなく、適用が明確にされていないことがほとんどです。派遣元としてはコロナウイルスに関連した派遣労働者の休業について派遣先の補償規定を置くことが理想ですが、少なくとも派遣先と派遣元の協議によって対応するという取り扱いについて双方が信頼関係を構築しておくことが必要だといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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