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2021年1月14日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」54・忘年会・新年会とコロナ

Q 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まらない中で、例年開催している新年会や交流会にどう対応するか悩んでいます。担当者としてはどのように考えるべきでしょうか。

koiwa1.png 例年であれば年末年始は恒例の忘年会や賀詞交換会、新年会などで多くの人が集うことで親睦を深めることになりますが、この年末年始はコロナの感染拡大を防ぐために「静かな年末年始」を過ごすことが国策として示されました。新型コロナウイルス感染症対策分科会によって感染リスクが高まる「5つの場面」が提言されていますが、①飲酒を伴う懇親会等、②大人数や長時間におよぶ飲食、③マスクなしでの会話、④狭い空間での共同生活、⑤居場所の切り替わりの5つはいずれも忘年会や新年会の場面に該当するため、基本的には会社主催でこのような会を開催することは望ましくないといえます。

 会社は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法5条)とする安全配慮義務を負っているため、今般のような状況の中で忘年会や新年会に参加した結果労働者がコロナに感染した場合には、安全配慮義務違反による損害賠償を請求される可能性があるでしょう。また、任意参加の開催で参加しない人の評価を下げるなどの不利益な扱いをした場合は、パワハラに該当する可能性があるため厳に慎まなければなりません。

 また、コロナの労災認定については、昨年4月に「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号)の通達が発出され、「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とする」とされています。したがって、会社主催の行事として参加が義務づけられ、労働者にその間の対価(給与手当)が支払われている場合は、コロナ感染が業務災害と認定される可能性もあります。

 これらの点を総合的に判断するとコロナ感染が広まり国全体で注意喚起と自粛が求められている状況においては、法律上の直接の制約はないにしても、経営上・労務管理上の事実上のリスク管理として、会社主催の忘年会や新年会は見送ることが賢明であり、さらには労働者の自主的な飲み会(特に5人以上の大人数)にも自粛を喚起することが妥当だといえるでしょう。新たな年を迎えて気持ちも新たに抱負を語り合いたいものですが、その場を設定するのはコロナが収束するまでしばらく我慢したいものですね。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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