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2021年7月29日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」82・ワクチン接種時の労働時間や休暇制度

Q 新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種する労働者への対応ですが、労働時間の取り扱いや休暇制度については、どのように考えるべきですか。

koiwa1.png 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進んでいますが、その中でさまざまな労務管理上のテーマが出てきます。ワクチン接種時の労働時間をどのように取り扱うのかという点や、接種後の副反応などに備えて会社がどのように対応するかといった点は、現場で直面する論点だといえるでしょう。「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(6月25日版)の<ワクチン接種に関する休暇や労働時間の取り扱い>では、以下のようなQ&Aが記述されています。

問20 自社に勤める労働者が新型コロナワクチンの接種を安心して受けられるよう、新型コロナワクチンの接種や接種後に発熱などの症状が出た場合のために、特別の休暇制度を設けたり、既存の病気休暇や失効年休積立制度を活用したりできるようにするほか、勤務時間中の中抜けを認め、その時間分終業時刻を後ろ倒しにすることや、ワクチン接種に要した時間も出勤したものとして取り扱うといった対応を考えています。どういった点に留意が必要でしょうか。

 職場における感染防止対策の観点からも、労働者の方が安心して新型コロナワクチンの接種を受けられるよう、ワクチンの接種や、接種後に労働者が体調を崩した場合などに活用できる休暇制度等を設けていただくなどの対応は望ましいものです。
 また、①ワクチン接種や、接種後に副反応が発生した場合の療養などの場面に活用できる休暇制度を新設することや、既存の病気休暇や失効年休積立制度(失効した年次有給休暇を積み立てて、病気で療養する場合等に使えるようにする制度)等をこれらの場面にも活用できるよう見直すこと、②特段のペナルティなく労働者の中抜け(ワクチン接種の時間につき、労務から離れることを認め、その分終業時刻の繰り下げを行うことなど)や出勤みなし(ワクチン接種の時間につき、労務から離れることを認めた上で、その時間は通常どおり労働したものとして取り扱うこと)を認めることなどは、労働者が任意に利用できるものである限り、ワクチン接種を受けやすい環境の整備に適うものであり、一般的には、労働者にとって不利益なものではなく、合理的であると考えられることから、就業規則の変更を伴う場合であっても、変更後の就業規則を周知することで効力が発生するものと考えられます。
 こうした対応に当たっては、新型コロナワクチンの接種を希望する労働者にとって活用しやすいものになるよう、労働者の希望や意向も踏まえて御検討いただくことが重要です。

 ワクチン接種はあくまで個人の判断において受けるものですから、会社が職域接種を義務づけるようなケースを除いては労働時間ではないため、原則としては完全月給制などでなければ不就労として構いませんが、会社がワクチン接種を促進し、労働者が接種を受けやすい環境を整備する意味でも、Q&Aにあるような中抜けや出勤みなしを認めることが望ましいでしょう。筆者が関わった例では、中抜けは不就労時間の算定や終業時刻の繰り下げの管理などが煩雑なことから、不就労扱いとせずに通常の賃金を支給するケースも少なくないと思います。

 また、接種後の副反応の有無や程度には個人差があり、副反応が大きい場合は、個人の体調管理が困難になることはもちろん、業務上の支障が顕在化することもあります。実際に医療従事者の接種翌日の体調不良による欠勤が相次いだような例もあります。会社によっては接種翌日に特別休暇を認めるケースもありますが、場合によっては有給休暇の計画的付与に充てるなどの対応も考えられます。いずれにしても就業規則の変更が必要となりますが、コロナワクチン接種という事情を考慮するとQ&Aにあるような柔軟な対応が適切だといえるかもしれません。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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