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2021年10月21日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」94・男性の育児休業取得のポイント①

Q 男性の育児休業が義務化されると聞きました。実務上のポイントを教えてください。

koiwa1.png 夫婦共働きのダブルインカム世帯が当たり前の時代となり、男性の育児休業取得率も2020年で12.65%(雇用均等基本調査)まで上昇したものの政府目標の13%には届かず、欧米を中心とする諸外国よりも低い水準となっています。このような背景から21年6月に育児介護休業法が改正され、男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設などが制度化されました。改正の概要は、以下の通りです。

①男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(22年10月~)
②育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(22年4月~)
③育児休業の分割取得(22年10月~)
④育児休業の取得の状況の公表の義務付け(23年4月~)
⑤有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(22年4月~)

 なお、①のことを指して男性の育児休業取得が義務化されると理解している人もいますが、こちらはあくまで出生後8週間以内に男性が柔軟に取得できる育児休業制度のことであり、②で取得対象の男性に対して育児休業制度について説明し、取得の意向を個別に確認することが義務化されることになります。事業主は、男女問わず該当者が育児休業を取得できる旨を通知・説明した上で、取得を促すための意思確認を行うことが義務づけられます。

 改正後は、育児休業の申し出期限が従来の原則1か月前までから2週間前までに変更されました。従来、原則分割は認められなかったルールが変更されて、分割して2回取得することが可能となるため、出産後の時期に柔軟に育児休業を取得することができるようになります。このような改正にあたっての注意点は、上司や担当部署が取得の申し出や相談を受けた場合に、決して配偶者の事情について質問してはいけないということです。育児休業の取得はあくまで労働者本人の意思に基づく権利ですから、法律にしたがって性別や配偶者の状況に関わりなく取得することができます。

 10年までは、労使協定で定めることによって、育児に専念できる配偶者(主婦や主夫)やいわゆる内縁の妻などがいる場合は労働者からの育児休業申し出を拒むことができましたが、現在ではこのような例外は撤廃されています。ただ、このようなかつてのルールが脳裏に焼き付いていて、配偶者が育児に専念できるのであれば育児休業は取れないのではと誤解している場合もあるので注意が必要です。

 育児休業の申し出や相談があった場合に家族の状況を聞くことは不適切ですが、直前になってからの申し出や分割取得が可能になっていくことで、従来以上に現場での運用面での配慮も必要になっていくでしょう。上司や担当者は言動に十分な注意を払うことが求められますが、同時にハラスメントになることを警戒するあまり必要以上に萎縮したり距離を置いてしまうことも問題です。休業開始や休業期間、業務の引き継ぎなどについては十分に本人の意思を確認することが必要ですので、落ち着いてコミュニケーションを取ることを心掛けたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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