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2022年2月10日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」109・コロナワクチン接種者の就業を派遣先が求めた場合

Q 派遣先が派遣会社に新型コロナウイルスワクチンを接種した派遣労働者の就業を求めてきた場合、どのように対応すべきでしょうか。

koiwa1.png オミクロン株が猛威を振るっていることもあり、新型コロナウイルスの第6波が深刻化しており、労務管理の現場にもさまざまな影響が出ています。できる限りワクチンを接種した労働者に就業してほしい、とりわけ未接種者を人と接する業務に配置することには慎重でありたいと会社が考えるのは当然といえ、派遣先が同様な発想を持つこともある意味では自然かもしれません。この点について法律的にはどのように考えるべきでしょうか。「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(以下、Q&A)などを参考に確認してみましょう。

 コロナウイルスワクチンの接種を拒否したことを理由に労働者を解雇、雇い止めすることは、客観的な合理性や社会通念上の相当性を伴わない解雇は無効などとした労働契約法(16条、17条、19条)に反するため許されません(Q&A10その他(職場での嫌がらせ、採用内定取消し、解雇・雇止めなど)問11)。一方で、採用時にワクチン接種を条件とすることについては、契約自由の原則から企業がどのような人をどのような条件で採用するかは原則自由とする判例法理(三菱樹脂事件、昭和48・12・12最大判など)から必ずしも禁止されるものではなく、求人者の責任においてその理由を応募者にあらかじめ示して募集を行うことが望ましいとされています(Q&A同問13)。

 ワクチンを接種していない労働者を人と接することのない業務に配置転換することについては、個別契約や就業規則に基づく配置転換権に基づいて配置転換を命じることは原則的には可能と考えられ、その目的、業務上の必要性、労働者への不利益の程度に加え、配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重な検討を行い労働者の理解を深めることが大切だとされています(Q&A同問12)。勤務地限定や職種限定契約などの場合は労働者の個別同意が必要とされますが、原則としてはワクチン接種の有無を配置転換の判断の要素とすること自体は妨げられないと考えられます。

 それでは、派遣先が派遣会社に対してそのような申し入れを行なうことについては、どのように考えるべきでしょうか。間接雇用の仕組みである派遣契約に基づいて就業する派遣労働者は、派遣先に雇用されているわけではありません。したがって、労働契約の当事者としての採用の自由や配置転換権を持つわけではなく、派遣労働者に対して直接権限を行使できる立場にはありません。特定目的行為の禁止(派遣法26条6項)の範囲に「若年者に限ることとすること」(派遣先指針)などが含まれると解されることからみても、原則としてはワクチン接種について働きかけを行うことは望ましくないといえます。

 一方で、労働者の健康管理の観点からワクチン接種を求めることは社会通念上も合理性があると考えられ、派遣先における業務内容や就業形態によっては他の労働者とのバランス上も事実上ワクチン接種を求めざるを得ないケースもあり得ると思います。派遣先と派遣会社との契約関係はあくまで取引契約であり、当事者が合意すればそのような内容の契約自体は違法とはいえないと考えられます。いずれにしても、両者の信頼関係に基づく労務管理が何よりも大切といえ、そのための日々の努力を継続していくことが肝要だといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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