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2022年5月19日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」123・能力不足による解雇の適否

Q 派遣会社を営んでいますが、営業担当の社員をどれだけ指導しても目標成績を達成できないので、最終的には解雇したいと考えています。具体的にはどのような対応をすべきでしょうか。

koiwa1.png 労働者と会社との間の労働契約は、労働者が行う労務提供に対する対価として会社が賃金を支払う有償双務契約ですから、労働者には賃金に見合った労務提供を履行する義務があり、それが履行されないときは原則として解雇(解約)の理由となり得ます。ところが、実際には社員の地位や契約形態などによって求められる能力は異なることから、同等程度の能力不足が認められたとしても一様に解雇理由となるわけではありません。

 一般的には、例えば営業職の場合、総合職(職種変更あり)→営業職(職種限定)→営業課長・部長(地位限定)となるにしたがって、会社から要求される営業能力は高くなり、営業成績の不振を理由とする解雇の理由になりやすくなります。対象となる労働者が雇用契約上必ずしも営業職への職種限定を伴わない総合職などの場合は、成績不振を理由とする解雇を成立させるハードルはそれなりに高いと考えられます。

 それでは、どのような場合に解雇が有効と判断されるのでしょうか。労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされており、長期雇用システムを前提とする我が国における解雇権濫用法理では、会社には可能なかぎりの雇用機会の確保が求められます。したがって、能力不足の労働者に十分な改善機会を与えた上で、なおかつ業務の支障が改善できないと判断されるような場面でなければ、能力不足を理由とする解雇権の行使が有効とは認められないと考えられます。

 具体的には、①業務指示(能力不足を改善するための具体的な指導・監督)、②業務配置(労働者の能力に見合った適正配置)、③教育・指導(適切な教育・指導の継続)などの労務指揮権を適正に行使した上で、業務指示や教育・指導などの業務記録を正確に作成・保管しておくことが求められるでしょう。

 また、能力不足の社員にいきなり解雇や懲戒を迫るのではなく、配置転換などによって職場環境を変えつつ教育指導を行うケースもあります。実際に裁判例などでも、適切な配置転換を実施した上で丁寧な教育指導を重ねた結果、普通解雇されたような例では、解雇が有効と判断されることも少なくありません。この場合は、本人に配置転換の理由を明確に伝えることが重要であり、従来の職務や経験とまったく関連がなかったり、明らかに会社が本人に仕事を与えないことが目的だと受け止められるような例では、逆に解雇や懲戒の有効性が損なわれてしまうことにもなります。

 あくまで改善を期待したきめ細かな教育指導を反復継続することが肝要であり、本人の改善の意思を適宜確認しながら、その経過を丁寧に記録に残して保存していくことが大切だといえるでしょう。いずれにしても、能力不足を理由とする解雇は決して容易に認められるものではありませんので、あくまで改善を目的とした誠実な対応とプロセスを心掛けていく必要があるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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